ある所に飛竜郷という沢山の竜が住む山がありました。
魔王の魔力で幾多の魔物も淫魔となるこの時代、この飛竜郷も例外ではありません。其処に住んでいた竜も皆女の子となってしまいました。
その竜達を纏める姫竜皇はその事態を深くは考えていませんでした。周りにオスがいなくなった事を然程気にせず、時代の流れだと受け入れていたのです。
ですがその内気付く事になりました。オスが居ない山に長く留まっていても仕方がない。この山は危険だから人間の男が近付く事もない。多くの若い竜が飛竜郷を飛び去り、自分達の恋を探し始めたのです。
姫竜皇も内心は此処を飛び去った若い竜達と同じ考えでした。けれど、竜の卵は悪い人間に狙われ易い。だから皆で共同で卵を守ろうと多くの竜が此処に集って飛竜郷はありましたから、その頂点に君臨する彼女がその在り方を蔑ろには出来ません。
ですが、その卵も減りはすれども今後一切増えはしない……皆が未来を憂い始めていました。
姫竜皇だって若い女の子でした。恋に恋する乙女だったのです。けれど、此処に留まると決めた他の竜達の事を考えれば勝手は出来ない。けれど守るべき卵は減るばかり。姫竜皇も他の竜達もこの場所に留まる意味を失い掛けていました。
そんなある日、一人の銀髪碧眼の美しい青年が神から授かった槍を手に山を登り始めました。彼は神に選ばれた勇者として、強者の象徴であるドラゴンを退治しようとする者でした。
姫竜皇は喜びました。此処で卵を護る役目を果たせば、これ以上仲間が故郷を捨て去らないと思ったからです。彼女は此処で生まれ、誰よりもこの場所が大好きでしたから、仲間が遠くに飛び去るのを見届けるのはとても悲しい事でした。
ですが姫竜皇が勇者を追い返そうと立ち塞がった所、勇者は姫竜皇に見蕩れてしまいました。姫竜皇の鱗の美しさは芸術として湛えられ、尻尾の形だけでも人間の理解を超えて美しいものだったからです。
勇者はその場で神への信仰を捨て、姫竜皇に愛の告白をしました。
姫竜皇は突然の愛の告白に困ってしまいました。だって、此処で勇者を追い払えば飛竜郷を護る竜として仲間から認められるのですから。けれど、姫竜皇に恋をした青年を、姫竜皇は傷付ける気にはなりません。
それどころか、姫竜皇はその青年に恋をしてしまいました。
けれどすぐ姫竜皇は恥ずかしくなってしまいました。人間に恋をするなんて彼女のプライドが許さなかったのです。
ですから、苦し紛れに条件を出しました。 自らに相応しい男である証を立てよ。
青年はその条件にしっかりと頷き、嬉々として山を降りていきました。
青年が去った後、姫竜皇はちょっと後悔していました。何故ならあの青年が二度と此処には来ない気がしたからです。
姫竜皇は次に彼が来た時、証として立てたものなら何でも認めようと思いました。
けれど、此処に居る他の竜達にこの事は言えませんでした。何故なら他の竜達だって恋がしたいのです。それを我慢して此処に残ってくれているのは、一重に姫竜皇の為でもありました。
それなのに、姫竜皇は一人だけ恋をしている。それが卑怯に想えて仕方ありませんでした。
青年は数ヵ月後、又山を登って来ました。姫竜皇は複雑な想いを胸に秘めながら、誰にも気付かれない様に彼に会いました。
どんな証を持って来たのだろうか気になっている姫竜皇に、青年は証としてある提言をしました。
……姫竜皇は怒りました。
青年の提案はこうでした。
『この山に人間の国を作りたい。それが、ボクが君に立てる証だ』
姫竜皇は悲しみました。
初めての恋だったのに、青年は自分の欲望の為に自分に近付いて来たのだと思いました。
けれど、其れは違いました。
ある時姫竜皇の下に魔術師が訪れました。
彼は言います。
『貴方は偉大な竜だ。どうして青年の立てた証に答えないのか』
『馬鹿を言うな。あんな薄汚い人間の言う事を私が聞くものか。去れ。人間はもう沢山だ』
魔術師は姫竜皇を、恐れ多くもあざ笑いました。
『偉大な竜よ。貴方は愚鈍だ。青年に知恵をつけたのは私だが、青年は只口下手だっただけだ。その本質は貴方に対する忠愛を示す為だと何故気付かない』
姫竜皇には魔術師の言う事が判りませんでした。
『偉大な竜よ。聞け。青年が言いたかった真の言葉を私が紡いでやる』
魔術師は懇々と語りました。
曰く、国を作るのは貴方の好む宝石や美しい物を永久に捧げる為。
曰く、国を作るのは貴方の愛するこの地を護る為。
曰く、国を作るのは貴方が護る卵を悪人から護る為。
曰く、国を作るのは貴方が想う仲間に出会いを教える為。
曰く、国を作るのは……貴方とずっと共に居る為だと、魔術師は紡いだ。
姫竜皇は青年の言いたかった事を
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