余話

「ういー、やっと終わったぜー」
 無意味に思えるほどダラダラと長い閉幕式を、やっとの思いで終えたエルロイが背筋を老けこませて呟く。その横では時間が経ってもご機嫌なチェルニーの姿があった。
 二人は観客に冷やかされながら、大会の受付に足を運んでいる所だった。大会の賞金は受付で受け取ることになっている。随分と不用心ではあるが、其処等辺の適当加減はもう既に慣れている頃であった。
 チェルニーは軽く小躍りしながらエルロイに告げる。
「ああ。今回の貴様は珍しく良く頑張った方だぞ? 誉めてやろう」
「……あんがとよ」
 目をしらーっと細めるエルロイ。途端にしおらしくなるチェルニー。
「あ……後、その」
「ん?」
「……優勝賞金もそうだが……こ、今回の事はッ、私達にとって、とても有意義だったと思うのだがッ」
 何が脳裏に横切ったのか、チェルニーの顔が赤くなって伏せる。この大会を振り返れば、エルロイは男   但し、魔物に守備範囲を持つ者   として、かなり贅沢な目に遭っているのだ。
 参加した魔物は総じて魅力的であり、性技に富んでいた。事実として、彼女達はエルロイを本気で喜ばせてきたのだ。丁寧に、入念に。時には背徳をも煽った。
 並みの男なら靡いている。そもそも、チェルニーは見た目こそ花も恥じらい自ら命を絶たんが程の美麗さを誇るが……性格に難がある。
 素直ではない。可愛い性格と取られるかは、実際かなり人を選ぶ。チェルニー自身ですら、自分のこの性分だけは何とかしたいと願いながらも、一生付き合わなければならないという覚悟の前に嘆いていたのだった。
    自分に自信がない。彼女の本音だ。いっそのこと体を預けて、否応無しに所有権を主張してもらうかと常日頃思っていたが、その勇気すら自分になかった。
 けれど、エルロイは選ぶ相手を間違えなかったのだ。幾多の誘惑に靡かず、今も傍に居てくれている   。
 彼の想いを知ることが出来た。これは有意義と言葉にする以上の価値があった。正直優勝賞金などどうでもよくなっている自分に気付いて、とても晴々しく感じているチェルニーだった。
「有意義、ねぇ。ま、そりゃあ、お前の大切さが身に染みて判った気もするけどよ」
「ああ。私もエルロイの事が大好きだぞっ」
 「ぶっ」とエルロイが噴き出す。曲解の果て、何気無く放たれた直球に不覚ながらときめいた自分を嘲笑した、と言う事にする。
 気を取り直してチェルニーに向く。
「なっ……あ、あのなぁ、こういうトコでそういうのは……」
「なんだ。試合中は散々観客の前で言ってくれた癖に」
 彼女はそっぽを向いてしまう。エルロイも苦笑するが、やがて躊躇いがちに口を開く。
「お、俺も   」
「あ、ほら、エルロイ。あそこで優勝賞金が貰えるんだな?」
「………」
「ん? なんだ、浮かない顔して」
「……いや、なんでもねぇ」
 今度はエルロイが頬を染める。チェルニーが首を傾げるまま、自棄になった風にエルロイは受付に向かう。人間の女性はエルロイの顔を見て、にこりと笑った。
「エルロイ選手。優勝おめでとうございます」
 彼女がそう語りかけると、エルロイは気恥ずかしそうにする。チェルニーの表情に殺気が籠る。
 無言の圧力。エルロイ、一転涙目になる。
「………」
「あ、あの。早く優勝賞金を頂きたいのですがあわわわわ……っ」
 すると受付の女性は怪訝に眉を下げた。
「優勝賞金でしたら、もう御受渡しを済ませていらっしゃいますよ」
「えっ?」
 二人が口をぽかんと開け広げる。当然、此処で二人は受け取っていない。状況が把握出来ない中、受付の女性は続ける。
「セコンド登録されているヴァーチャー様がお二方よりも早くにいらっしゃいまして、賞金をお受け取りになられました。ですので、賞金は其方でお受け取り下さい」
「なーっ!?」
 二人にとっては寝耳に水である。ヴァーチャーがセコンド登録され続けていた点もそうだが、だからといってあっさりと渡してしまう受付も受付だ。
 二人は一気に肩の辺りにずっしりと錘が乗った気分がしながら、共通してこう言う。
「あの野郎……どういうつもりか知らねぇが」
「随分と舐めた真似をしてくれるではないか……っ」
「取っちめてやるっ」
「付き合うぞっ、エルロイ」
 二人がそう頷き合う。しかし其処である点に気付くのだ。
「   で、ヴァーチャーって、普段何処に居るんだっけ?」
「さぁ? いつも向こうから接触してくるから……普段何処に居るかなんて見当が付かんなぁ」
「そうかぁ」
「………」
「………」
(や、やられた……っ!!)



 大会に優勝した副賞として、大会開幕中選手が宿泊していたラブホテルの無料券を渡されたエルロイ達。結局、死に物狂いで探したヴァーチャーは見付からず、疲労だけが募った体をベッドに
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