決勝

「ホントーに済まなかった」
 闘技場の一室   本当は大会関係者の休憩室であったのだが、其処に足を折り畳んで座る二つの影があった。その前には天衝黒髪の東洋人と、大事そうにマイクを握り締めたエキドナの姿があった。
 東洋人は目に角を立て、体中からピンク色の粘液を垂れ落としながら、申し訳なさそうに足を畳むエルフ   チェルニーに静かに凄む。
「……で? どぉ落とし前をつけるんや? ん?」
「ひぅぅ!? エ、エルロイ〜……ッ」
 エルフは情けない声を上げて隣に視線を向ける。隣で同じく足を畳んで謝意を示すエルロイは黙って頭を下げた。
「悪かった」
「何が?」
「……ローパーをぶつけた件に関して」
 すると其れを聞いた東洋人、ヴァーチャーは業とらしく溜息を吐く。
「そんなことはどうでもいい」
「……え?」
 自分達の負い目と相手の怒りの焦点が合っていないことに戸惑いを見せたエルロイ達の前で、ヴァーチャーはくわっと凄みを増してこう言い放つ。
「   童貞扱いされたのが気に食わんっっ」
「……あはは」
 そんなヴァーチャーの横では大会で審判兼実況を勤めているルゼが苦笑する。エルロイは、責めるとまではいかないが、文句を込めた目でチェルニーを睨む。彼女は顔を真っ赤にして肩を震わせていた。
 改めてヴァーチャーがばんばんと机を叩いて、ぶいぶいと喚くには。
「第一なぁ、俺が悪役やったとしよう。んでもって、お前等を嵌める目的が、なんでエルフとキャッキャウフフする事になんねんっっ。お前等、馬鹿じゃないのか!? 何処の大人がそんな目的の為にこんな回りくどい手を使うんやっ」
 エルロイ達はヴァーチャーを疑った。そしてその目的を見立てたのが、今ヴァーチャーが言った事全てで間違いなかった。
 二人は顔を赤くする。改めて考えれば、有り得ないほど稚拙な妄想である。その対象、というか被害にあったヴァーチャーは自分が恥を掻いたと言わんばかりに怒っていた。チェルニーは顔を伏せたまま言葉を漏らす。
「うぅ……だって、貴様がエルロイの本名を知っていたから……つい、目的はさておいて疑ってかかるしかないと思って……」
「目的をさておくなっ、コノヤロー。大体、このお話のお前の第一声を思い出してみろ」
「そ、そんな昔の話、憶えておらんわっ」
 ※最初の話の冒頭で、チェルニーは思いっきりエルロイの名前を呼んでいました。
 開き直りとも取れる言動に呆れ果てた表情のまま、ルゼに目配せをするヴァーチャー。途端、ルゼは口を挟む形でこう説明を切り出す。
「ヴァーチャーさんは外部から招かれた顧問でして、マイテミシア大武闘会を無事に運営する為の武力或いは戦略的なサポートをしていただいている方なのです」
「そうでないと何食わぬ顔で解説席に座ってられるかっ。これでお前等を私的に利用することは出来ない立場やって事くらい判るやろう?」
 ヴァーチャーが最後にそう付け足すと、チェルニーが首を傾げる。
「何故だ?」
 恥も考えず、素直に疑問を投げ掛けて来たのに驚きつつも、ヴァーチャーは険もなく丁寧に教えて掛る。
「自分達で招いた顧問が不始末を起こすのは何処の組織だって面白くないやろう。しかもそいつに不始末を起こされたら、組織って奴は責任の在り処を誰かに求めないと気が済まない。……そういう、メンドイ事にそもそもならないように、俺の行動の一切は監視されていて当然やろう。俺だって、面倒な事になって契約金がパァになるのは面白くない。怪しい行動も慎まざるを得なかったんや」
「はぁ。成程な(……しかし慎んでいたか?)」
 チェルニーが納得しながらも、何処か引っ掛かることがあるような顔をしたが、エルロイはそれを上回り、話を端から信じていないかのように怪訝な顔をした。
「じゃあ、なんで俺等のセコンドに立ったりしたんだよ。それこそ大会自体をややこしくしてるじゃねぇか」
「お前も考えの浅い奴やなぁ。態々、信用のない外部の者をデリケートな運営に招いた意味も考えてみろ。   それだけ切羽詰まってたって事やろう?」
 直ぐにそう呆れ気味に切り返されるが、エルロイはむすっとした表情をヴァーチャーに返すだけだった。
 ヴァーチャーは額から垂れ落ちるローパーの粘液が目に入るのを嫌がりながら語る。(猶ローパーの粘液には催淫作用があるが此処ではヴァーチャーが無効化している。)
「……今大会においてやけど、少々厄介事があったんや」
「厄介事?」
「ああ。『大会を中止しなければ、会場を爆破する。尚、我々が本気である証拠に、開会式の時に会場の一部を爆破する』」
 文面をそのまま読んだかのように放たれた、不穏な一節。その後に続いてヴァーチャーとルゼが、予めリハーサルをこなしていたかのように交互にこう語り始める。
「そんな書簡が送られて来てな。最初は運営
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