少し前に聞いた話によると、無法国家と呼ばれるマイテミシアで舞踏会が開かれるらしい。俺もこのご時勢自分の腕を何処かの国に示して雇ってもらおうと考えている野心の一つだ。此れに出場して、優勝まではいかなくとも、何処かの御仁に目を付けられれば登用の話も自然に舞い込んでくることだろう。
ということで此処、マイテミシアの舞踏会会場がある首都イバラクアに足を運んできた俺達。
只、解せない事が一つあった。
(……なんで、初出場の俺が一気に本選出場なんだ?)
実は俺、予選に出場していないのである。何故か、申請の段階で一気に本選に送られた。
俺はこの大会に出場した事は無いし、況してや優遇される当て、つまり俺自身の名前にはまだ知名度などない筈。首を傾げつつも、俺は受付で登録を済ませた。
「 エルロイ」
ふと、背後からそう名前を呼ばれる。振り返った瞬間、思わずドキリとした。其処には、見慣れた筈の可憐さ、俺の連れであるエルフ チェルニーが立っていた。
「おう、宿の方は取れたか? 暫く此処に滞在する事になりそうだから」
「ああ。舞踏会出場者は宿が用意されるらしくてな。貴様の付き添いだと言ったら、中々いい宿を用意してくれたんだ。……まぁ、なんか、自棄に色彩のキツイ部屋だった気がするが……」
「?」
此処で僅かながら反応してしまった俺は、詳細を希望しているように見られたらしい。チェルニーは記憶を呼び覚ましながら、俺にきちんと伝えようとしてくれる。
「風呂も大きいし、変な置物とかが沢山あってなっ? なんか、魔力を込めたらブルブル震え始める棒みたいなものとか、水が入った大きなベッドとかあって、すっごくみょうちくりんだったぞ。部屋のライトもなんだか薄暗いし……人間の宿とは、ああいうものなのか? まぁ、部屋自体は綺麗だったし、興味深かったりはしたのだが」
「………」
俺が予想する限りでは、どうやら余計な気を回されたらしい。そして世間知らずのこの女は、連れ込み宿 ラブホテルのこと というものの存在を知らないようだ。ていうか、大人の玩具まで常備してやがるのか、その宿は。
「……そんなことより、大丈夫なのか?」
そう言って柳眉を下げるチェルニー。
「何が」
「貴様の扇を使った舞は確かに流麗だ。だが私が思うに、この優遇具合は男だからじゃないだろうか。普通、踊りというのは女の方が喜ばれる事くらい私でも知っている。これは若しかしたら、男だから評価が落ちると言うハンデを事前に考慮に入れたからじゃないか?」
そう言われてもどうしようもない。俺は頭を掻く。
「いや、でももう出場するって決めたし。大体、お前が出場しろって言ったんだろー? 今更何が『大丈夫なのか?』だ」
「うっ。(だって、エルロイが踊っている姿が見たいなんて、言えないし……っ)」
「ハンデがあってもやるっきゃないだろ? こういう場に出て、少しでも名を売らなきゃ、俺はクズ野郎のままなんだぜ?」
俺の言葉にチェルニーが頷く。そして俺は人が蠢くドーム会場を見回し、その奥に出場者の内訳が幻影映写で掲げられているのが目に入った。
「お、あそこになんか書いてある。……そういえば、踊るのは判るけど、演目は訊いてなかったな」
「えんもく?」
「いや、普通、音楽に合わせて踊るだろ? せめて国とか地域とか、発祥が明らかで、ポピュラーなジャンルだといいんだけどなぁ。知らない曲だったら困るし」
「? 何か違いがあるのか?」
「当然だろ。テンポの速い遅いとか、曲調の明るい暗いとか、テーマは何だとか。それをちゃんと把握しきれてないと動きのキレがイマイチ、な」
そう呟きながら、幻影映写のモニターの方に足を進める。後ろではチェルニーが重箱の隅を突くような小言を言いながら俺に付いて来る。
「全くっ。そんなに重要な事を、何故確認しておかんのだ。受付を済ました段階で、他の出場者と差がついてしまったではないか」
「あ〜もう、五月蠅ぇな。過ぎた事はいいだろー? 言わなかった受付の人が悪い あれっ?」
思わず足を止めた。目の前の白塗りの壁に掲げられる光の幻に表示されてあったのは、演目の主題でも、審査員の名前でもなかった。其処に書いてあったのは……トーナメント表。
「……? あれ? おかしいな……」
モニターの上部には確かに、“ぶとうかいしゅつじょうしゃれんらく”と書いてある。
舞踏会出場者連絡。俺が今回出ようとしている大会の連絡板の筈だ。
「どうしたのだ?」
渋い顔をしている俺に、チェルニーが声を掛けてくる。俺は思わず口に人指し指の脇を咥える。
「いや、普通踊りを競うのは、一対一でやるもんじゃないんだよ……。普通、大人数で一番、目を惹いた奴が優勝っ、て感じなんだけど」
「詳しいな。こういう大会は
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