「フフフ……よかったのかい? ホイホイ付いて来ちまって」
ガタッ
そう不敵な笑みを見せるヴァーチャーに、俺は思わず引き下がり、壁に背を打ち付ける。
「……一回言って見たかっただけや。本気にすんな」
呆れられたようだ。ヴァーチャーは両腰に下げた剣を枕元において、さっさとベッドに腰掛ける。
「しっかし、君もやるなぁ。女の子の為に、あんな風に喧嘩売るなんざ、今時珍しい男前やんか」
そう言われて、俺も悪い気がしなかった訳ではない。俺もベッドに腰掛けて、この男と面と向かう。
「いや。あれは同族嫌悪って奴さ。俺も奴等も大して変わらない」
「変わるって! 守りたいものがあるかどうか、これは重要な違いやで? ……若干臭いけど」
驚いたように急に声を張り上げるものだから、俺も吃驚してしまった。なんだかよく判らんが、この人は悪人では無いらしい。ていうか、此処までよくしてくれるなんて、寧ろいい人だ。
「よしてくれ。そんな、大袈裟なもんじゃない。それに、あの時はアンタの助太刀があった」
「俺は君の怪我した足分ぐらいしか働いてないよ。剣も抜いてないし。それ以上、働く義理もなかったから。そう考えると、あれは君一人が遣って退けた事やよ」
俺の足の怪我を見抜いていたこの男には驚いたが、そんな男が俺の事を素直に褒めてくれる。ついつい俺は調子に乗ってこんな事を言うのだった。
「フフン、まぁ、こう見えて俺は自分でも腕が立つと思っているけどな?」
「ははは。確かに、筋が良い」
今の一言はなんだか格下に向ける言葉に聞こえてイラッとしたが、恩のある人に下らないことで突っ掛かる訳には行かない。
「……ところで、あの子とはもうどれぐらいなんや?」
「は?」
俺は思わず聞き返してしまう。もうこの部屋に来たら寝るだけと思っていたのだが、隣の部屋で無駄話を止めたこの男が、こんな所でまた話を始めるとは思わなかったのだ。一言二言なら寝酒みたいなものだが、この男の目は寝る気どころか野次馬根性に輝いていた。
「可愛い彼女やんか。……まぁ、なんかツンケンしているけど、仕様か?」
「なんのだよ。ていうか、彼女じゃないし。あとどれくらいもクソも、今日出会ったばっかりだ」
そう答えると、流石に此奴も驚いたらしい。
「えぇ。出会ったばっかりの子に、あんなに好かれるのか。どんなフラグの立て方をしたんよ?」
「フラグってなんだよ。……ちょっと待て。“好かれてる”?」
この男のその言い草は捨て置けなかった。男はきょとんとした様子で頷く。
「おう」
「誰が?」
「君以外に誰が居る」
「俺が?」
「そう」
一旦間をおいて、俺は溜息を吐く。この人はきっと、目の病気か何かなんだ。きっとそうだ。
「はぁ……馬鹿馬鹿しい」
「あー。若しかして彼女の好意に気付いてやれてないとか?」
まるでからかうように言ってくる。俺はさっさとベッドに潜り込んで奴のペースに持っていかれないようにした。ていうか、髭まで蓄えたオッサンの癖に、矢鱈生娘みたいに喋るな。
「くくく……先が思いやられる。」
「うっせえ!さ、さっさと寝ろっ!」
「はいはい……くくく」
全く、気持ち悪い笑いしやがって。だが奴はベッドにもぐる気配無く、突然神経を張り巡らしたように静かになったのだった。俺は只ならぬ気配に驚いて、奴の方を見遣る。
「どうした?」
「……お客らしい」
そういった奴の視線の先には、この部屋の入り口があった。そして奴の言った通り、大した間隔も空けずに扉がノックされた。
コンコン
「……彼女なんやないか。若しかして、恋しくなったとか? 可愛すぎるやんかぁ」
「いい加減にしてくれ。そういう関係じゃない」
思わず否定するが、そういえば俺達はどういう関係なのだろう。一瞬疑問に思ったが、奴はこう言った。
「俺はここら辺に知り合いは居ない。だとすると客人は君のお連れさんや。確実に用があるのは君の方や」
「……そんな理論立てて俺を向かわせなくても」
そう返しながらベッドから出て、扉に向かう。思えば、鍵など閉めていなかった。
「はーい」
そう外に居る何者か、恐らくチェルニーだろうと予測をつけながら声を掛けながらドアノブを掴もうとした瞬間 勢い良く開いたドアが俺の顎に直撃した。
ガンッ
「ぶふっ!?」
思わず後退りしながらも、イラッときて顔を上げる。其処には案の定、可愛い顔した理不尽少女が立っていた。
「……て、てめ……何の為に声掛けたと思ってんだよっ!? こういう事態を防ぐ為だろ!?」
少なくともこの女があと少しだけ頭が良ければ俺の顎は無事に済んだのだ。だが良く見てみると、チェルニーの様子がおかしい。赤くなって、荒い息をして、じっと俺を見ているのだ。
まるで、何かに魅入られたように。
「はぁっ……。はぁ……ぅ
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