光の卵と小さな魔王4



「なんでリリムが風呂場でかち合っただけで絶叫して攻撃してくるんですかね……何処のラブコメなんですかこれ」
 身体の殆どの部分に包帯を巻いて、椅子に座らされる青年がじとーっとクルエラを見詰める。視線がむず痒そうに、椅子の上で肢体を揺らすクルエラ。
「と、突然だったから吃驚しただけよ! トラブルとはいえ、貴方に私の身体が刺激が強いと思って咄嗟に意識を飛ばしてあげようと」
「その、より強い刺激で死にかけたと思うんです、僕」
「いいじゃない! 死んだって蘇生してあげるわ!」
「先ず殺さない方面で宜しくお願いします」
 顔を合わせる度ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人と違い、ツァヌプグァは淡々と料理を運んでくる。
「大体なんで私より貴方が先にお風呂に入っているのよ。私の身体に映えると思って垂らしてみたミノタウロスミルクの匂いが思いの外染みついちゃって不快で堪らなかったのに」
「そんなこと言われても、服用意してくれる間風呂に入ってろって話で……えっ、態とだったの!? そんな理由で自ら牛乳被ったの!?」
「サキュバスにとって極上の誘惑は日々の研究の上に成り立つのよ! 第一、貴方おかしいわよ。私の裸を見て何も思わないなんて。ひょっとして貴方、ガチ熟女……いえ、老婆好きか何か!?」
「誰がだッ! 確かに守備範囲は広いが、其処までピーキーじゃない。でも確かに俺、ロリもいけるハズなのに何でだろう? 多分アレかな。二次元とか絵や文章でのロリはいけるけど、実際に目にすると罪悪感が凄いっていうか。なんか手を出すと自分で自分を許せなくなりそうっていうか……」
「これだからファッションロリコンは。幼女の穴も法も犯す度胸のない意気地なしばかりね」
「こ、コイツ……っ、口が悪いぞ……どういう教育受けてんだ……」
「姫様、お料理が冷めます。お客様もその辺で。……因みに、私がお姫様が生まれてから変わらず教育係を務めさせて頂いておりますが、何か?」
「何でもないです」
 結局ツァヌプグァが静止するまで不毛な言い争いは続いた。



(良かった。こっちの料理も充分口に合う。異世界に来ての不安はやっぱり食い物が合うかってのもあるよな……何も食ってなかったから何でも旨く感じるだけかもしれないけど)
 何だか良く判らない具材の料理に舌鼓を打ち、青年は一息吐く。改めて、此処は自分の知識にある世界は違うのだと実感し、自分以外の事を考える余裕が芽生えてきた。
「……これから俺、どうなるんだろう」
 不安が込み上げてくる。覚えていないが、元の世界には自分の両親や友人、恋人がいたかもしれない。幾ら夢見た世界に放り出されたと言っても、彼等を心配させていていいのだろうか? 人一人行方不明になっているというのは重大な事だ。
「さて、話を始めようかしら?」
 眉を引き上げ、両手を開いて見せるクルエラ。ツァヌプグァがその後ろに控え佇む。
「貴方は漂流者。そうよね?」
「……ああ、意味はさっき聞いたよ。確かにそうだ」
「漂流者は、異世界の知識をこの世界に齎してくれる存在。単刀直入に言えば、その知識を私の為に役立てて欲しいの」
 そう請われて、嬉しさが込み上げてくる。まさか図鑑世界に放り出されただけじゃなく、自分が主人公の物語が始まろうとしているのだ。
 言わば、冒険の予感であり、波乱と歓喜の幕開けであり、要するに夢で臨んだ夢が全部全部叶うのだ。青年は鷹揚に頷かんとするが、咳払いで誤魔化した。
「……いいか?」
「ええ、どうぞ」
「俺には記憶がない。求めるような知識があるか判らないじゃないのか?」
「例えそうでも、貴方がいるだけで役に立つ   一目見た時から確信していたわ」
 艶っぽく微笑むクルエラ。
 高鳴る胸を振り払う様に、彼はもう一度咳払いする。
「……元の世界に帰りたいって言っても?」
「何時でもいいわ。それまでの間だけでも」
 予想していた質問だとばかりに、クルエラは即答してみせた。
「えっ。いいの。ていうか、帰る方法があるのか?」
「ないわ。少なくとも今は判らない。……強いて言えば、貴方がこの世界に引き摺り込まれたのは、貴方の世界とこの世界を繋ごうとした実験の失敗に拠るものよ。それが成功していたのなら、話は別だった。……只、その失敗の犠牲者である貴方にね、その責任を負う必要があるの。私達は」
「実験の失敗……それで、俺は此処に飛ばされた……」
 確かめる様に言葉をなぞる彼を観察しながら、クルエラは手元にあるワインを口に含んだ。
「……だから強制じゃないの。貴方を保護するし、持て成すし、帰る方法を責任を持って探す。だけど、その間に手伝いも出来ないかという頼みなの。だから、断っても構わない。だから私はこうして魅了されて意思決定が捻じ曲がらないように、貴方と私の間に魔力の絶縁体を張っている。誠意の証と
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