光の卵と小さな魔王2


 “門”から出てきた光の卵は、まるで砲弾の様に空を飛び、やがて領都クロウドアに程近い森の中に墜落した。此処は迷子の森とは違い、魔力の吹き溜まりなどない静かな森林であった。
 その平穏を掻き乱す轟音。森の若木に着弾した光の卵が霧散する。あられもない姿のまま中で眠る青年は、寝かされる様に苔のベッドの上に倒れ込んだ。
 柔らかい苔のベッドは、しかし傾斜を持っていたようで、弛緩した身体は支えも無く滑り落ちる。
 その先には水底まで澄み渡る湖畔があり、青年の姿が力なく沈んでいく。
 まるで人形の様に動かない身体。
 水面に陽光が指し、瞼を照らした。
 肌に血色が浮かび上がる。
 瞼が震える。
 双眸が見開かれると同時に、青年はがむしゃらに腕を振り乱す。
 水の中から顔を出すと、萎んでいた肺一杯に新鮮な空気を吸い込んだ。
「   ぷはぁッ!? かっ、はっぁ……? 此処は……?」
 水面に浮かび、周囲を見回した。暖かな陽の光。静かな森の風景。顎に張り付いた落ち葉を剥がして、彼は兎も角、岸辺に上がる。
「はぁ、はぁ……何? 此処、何処?」
 彼にとっては何処か懐かしさを感じるが、単にそれだけの風景が並ぶ。
 木々の隙間を走る風の音。木の葉の腐る爽やかな匂い。水の流れる振動。何処かで小動物が鼻を動かしている気配。
 身体を伝う水滴が腐葉土に滴々と染み込む。彼は息を整えると、初めて寒気を感じた。
「さぶ……なんで俺服着てないの……? 此処が何処かも判らないし、訳が判らない……特に服着てないのが一番謎だ……自分で脱いでどっか捨てた訳ないだろうし」
 世界に自分一人だけが取り残された様な感覚を覚え、身を震わせる。誰か居ないのか。という叫びは自分の全裸を見られるという羞恥心で尻窄んだ。
 周囲に人が居る気配はない。只   何かの視線を感じる。
「え、えっと……救助とか来るのかな。でも俺、本当になんでこんな所に? 記憶がない……携帯なんてないし、そもそも森なんて自分から行こうとする訳ない。こうなると、誘拐? だとしたら、救助なんて絶望的だし……それにしても何故俺は文化的な姿ではないのか」
 段々悲観的になっていく自分に気付くが、だからといってどうしようもない。普通は救助を期待してその場に留まるのが一番だが、自分の状況が判らない以上救助を期待出来るのかも判らない。
 決断が出来ずにその場に立ち竦んでいる彼の耳に規則正しい音が聞こえてくる。
 大地を軽く蹴り駆ける幾つもの足音。落ち葉を踏み付けても最小の音しかしないその狩人達の興奮した息遣い。
「えっ、な、何だ……っ?」
 草の影から除く眼光と目が合った。其処には四つん這いになった少女が、舌舐め擦りをして此方を伺っていた。
 獲物に気付かれた事を察した彼女達ワーウルフの群れは、茂みから悠々と姿を現す。示し合わせる事もなく、各々青年の逃げ道を塞ぐ様に位置取った。
「リーダー、コイツすげぇ精の匂いする……しかも裸」
「食っていい? ヤっていい? ねぇ、いいでしょ、リーダー? リーダーが最初でいいからさぁ」
「アタシ達の縄張りで裸で迷い込むなんて、殊勝な獲物……ご褒美にこれからの一生ずっとアタシ達のオモチャにしてあげる」
 三頭のワーウルフは其々唸る。発達した狼の手足、振られた尻尾。姿勢を低くして、ゆっくりと青年の周囲をうろついて、涎を垂らす。
 青年は、そんな魔物の姿を見て、目を見開いた。
「え、嘘だ……こんな事って……!?」
「それにしてもいい匂い……こんな極上な獲物は見たことがない。オマエ達、絶対逃がすな?」
「アオォーン
#9829;」


「   ワーウルフ!?」


 青年の唐突な絶叫に、やる気まんまんな三頭のワーウルフ達は攻め時を見失い、怯む。
「ウルフ種、獣人型、ワーウルフ! 群れで暮らす、狼の特徴を持つ獣人の一種! 知性は高いが非常に凶暴な性格をしており、獲物を探して森林や山地を強靭な脚で駆け回るッ。人間の男性を見つければ襲い掛かって強姦し、女性を見つけると噛み付こうとする。彼女たちに噛み付かれた女性は、彼女たちと同じワーウルフになってしまうという。発情期になると更に凶暴になり、人里まで降りてきて男を襲う事もあるという! 実に凶暴な彼女らだが、一度主人と認めた相手には非常に忠実になるため、彼女達に襲われてしまった場合は彼女達を打ち負かす事が一番だろう、ただし、訓練を積んでいない人間が彼女達を倒す事は至難の業であるッ! 人間からワーウルフとなった女性は、原生のものと比べてまだ大人しい傾向にあり、元の家族や恋人を、仲間や主人として認識するため、共に暮らす事も可能である。ただし問題があり、家族に女が居る場合、噛み付いて同じワーウルフに変えようとする事と、彼女の主人となった男性は人間の時より数倍以上の性
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