繁殖期が始まったのは、それから二日後の事だった。
下腹部の 子宮があるであろう部分に痒みが生まれたのだ。
けれど、それは、今まで経験した痒みとは強さの点で一線を画していた。痒みというより、最早疼きと言った方が良かった。痛みさえないものの、それは耐え難く思える衝動めいた感覚だった。
私は狩りに行く事すらままならず、巣の中で腹を押さえて転がり回った。やがて狭いその場所からも転げ落ちて、落ち葉積もる地面に体を打ち付ける。それでも、全身を走る痛みよりも子宮部の疼きの方が勝った。
どうして、こんな時に限ってこんな事が起きているのか全く判らない。これではオスを探す所ではない。
私は一体どうしてしまったのだろうか 判らないまま、落ち葉を掻く。
心なしか、身体が火照っている。疼きに熱が帯びて来て、全身を巡り始めたのだ。益々私はどうしようもなくなってしまい、脈動的に襲い来る奇怪な衝動に抗おうと、身体を強張らせて丸まった。
疼きは一刻一刻と強まって行く。息を荒く吐き、気持ちを落ち着かせようと努めるだけ、何かの反動の様に度し難く疼いて来る。
この現象を前にして、私に出来る事は何もなかった。只、この疼きに体を支配される以外選択肢はないものなのだと、私は何処かで気付いていたのかもしれない。だからこそ、これが今まで経験した物とは違うと言いつつ、繁殖期の訪れであると即断出来たのだろう。
どうしようもなく、考えが纏まらない。茹でられた様に頭が働かない。
ぼんやりとした意識の中、只、痒みの走る近傍に位置しているアソコがもどかしくて仕方無くて。大木を背にして、指先で引っ掻いた。
ビィィン、と響く痺れが走る。
その痺れが、少しだけ疼きを誤魔化してくれる。
それに気付いた私はアソコを擦り続けた。本来は排尿に使用するだけの排泄口である其処を撫でる度、疼きが少しとは言え霞む。切羽詰まった私にとって、それは大発見だった。
やがて、何かがぽっちりとした物が膨らんで来たのが判った。肉の割れ目から、ピンク色の虫の様な物が這い出て来た。私は、最初からそれが何なのか知っていた気がする。その小さな姿からは想像出来ない程の熱を感じながら、其れを小刻みに撫でると、身体の奥まで甘い痺れが走るのが判った。
けれど こうした行為は、子宮の疼きを収めるには至らなかった。忘れさせてくれはしたが、それは一時、一瞬、刹那の間だった。
アソコから何かぬるっとした物が這い出して来た。指に絡まって、白く濁った糸を伸ばす。それを、アソコとピンクの突起に塗りたくって、滑りを良くしてやると、不思議と何か満ち足りた錯覚を憶える。
興味本位で、突起を抓ってみる。すると、甘い電流の嵐が迫って来る。暫く息が出来ず、身体がぶるぶると一人でに奮い立ち、完全に思考が止まった後、嵐が通り過ぎて行ったのを感じた。
自分が息を切らしている事に気付いた。何時だって、私は息を乱す事は無かった。それだけ鍛錬していたし、身体の使い方を熟知していたからだ。
なのに、こんな事で。こんな一時の行為が、どうして私を此処まで疲労させるのか、疑問でならない。
手の中に何かが放たれたのは感じていた。見ると、ぬるぬるした液体が大量に、私の手に掛って、雫を垂らしていた。
判らない事だらけだった。これから自分はどうなってしまうのか、不安でならなかった。
こういう時こそ、なんで、彼奴は居ないんだっ。 咄嗟に思い浮かんだ顔を振り払おうとしたが、この時ばかりは、何故か振り払えない。二日前に姿を消した特徴のないオス個体の姿形なんて、もうそろそろ忘れられる頃だったというのに、思い出してしまうなんて、不覚だった。
「バーカ……バーカ……」誰に向けて言ったのかは、憶えていない。
それからは夢中で身体を慰め続けた。乳房がもどかしくなり、甲殻を下げて揉みしだいた。何度も、何度も、あの甘い嵐を身体全体で受け止めた。
声も抑えられない。抑えようとも思わなかった。だから、きっと、森の中に私のあられもない声が響いていたかと思う。
思えば、私は何かを埋め合わせようとしてこの様な行為に耽っていた気がする。
心の中にぽっかりと空いた、何かを 。
―――――
だから、その時の私は、周囲に気を配る様な余裕はなかった。只、子宮を襲う疼きを収めようと必死だったのだ。
……だから、不意に目を向けた茂みの向こうで、彼奴と目が合った時は、みっともなく飛び上がったのだ。
「ふにゃあっ」
「あ! え、えええええあのそのえっとあわわわ」
咄嗟に手近にあった木の器を投げ付けると、カツンと中身がない音を響かせて、彼奴は茂みに倒れ込んだ。
「二度と顔を見せるなと言った筈だっ。何故此処に居る!」
「ちょ、ちょっと話を聞いてよ」
ふ
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