砂の踊り子

 目の前の美女に少年は釘付けになっていた。

 乳房や秘部、口元を透けた布で隠しただけという妖艶な姿をした美女が、ステージの上でポールを手にくるりと回った。薄い布がふわりと持ち上がり、黄金色の髪が空を泳ぎ、褐色の肌を更に見せつけると品の無い歓声があがる。

 その声を聞きながら、少年は静かに喉を鳴らした。

 その美女は人間ではなかった。下半身が蛇になっているラミアという魔物娘だ。それ故男たちの歓声も半分は見世物に向けるような感情も混じっていた。そんな中、少年だけがただ純粋に彼女の姿に見惚れていた。

 ここは砂漠の町。オアシスから少し離れた中継地のような場所で、商人や旅人を休ませる宿が立ち並んでいる。娯楽施設もいくつかあり、その中のひとつがここである。酒や軽食と共に薄着の女性が躍るのを楽しむ店である。

 男ばかりの長旅へ向かう前の楽しみに、長旅を終えた褒美に、二つの需要が重なり、それなりに繁盛している店だった。適度に楽しみ休むもよし、ダンサーを誘って更に夜を楽しむもよし、男たちの慰めの場として設けられた店であった。

そんな場所に彼のような少年が居るのは珍しい事だった。

 彼はオアシスから水をこの町に運ぶ仕事をしていた。身寄りもなく学もない彼はそういった仕事に着くしかなかった。けれども決して不幸ではなく、少年は最低限の暮らしができる事に感謝すらしていた。

 少年が彼女の姿を見たのは客としてではなかった。たまたまこの店に水の搬入に来て、遠巻きに彼女のダンスを見たのだ。その美しく妖艶な踊りは、人生で見てきたどんなものよりも彼を惹き付けた。

 仕事も忘れ、遠くからぼうっと火照った頭のままラミアの踊りを眺めていた。ポールに大蛇のように巻き付くラミアが、ふとその動きを止めた。その視線は少年へ向けられているが、彼自身はそれに気が付かず、ラミアもまた踊りを再開した。

 雇い主に「早く戻ってこい」と怒鳴られた少年は、後ろ髪を引かれる思いをしながらも、急いで店を出ていった。

 ラミアはその背を横目で見ながら、長い舌をちろりとのぞかせた。


     ◆


「はあ……」

 少年はベッドの中で熱っぽいため息を吐いた。

 今回の雇い主は粗暴だが支払いはよかった。日雇いの少年には十分な額であり、こうしてベッド付きの個室に泊まることができた。普段ならばふかふかのベッドに横になったらすぐに眠くなるのに、今日はそう言うわけにはいかなかった。

 先ほど見たラミアの姿が忘れられなかった。彼女の踊る姿を思い出しては体の芯が熱くなってきて、もぞもぞと体を動かさずにはいられなかった。ただの性欲だけではなく恋慕感情が少年の身を焼いていた。

「また、見に行こう……」

 少年はもぞもぞと動きながら考える。

 あのお店は大人向けだった。仕事以外で入れて貰えるだろうか。それにお金もかかるんじゃないだろうか。だったらあそこに搬入する仕事につこう。ああでもラミアさんが居ない時に行っても意味がない。

 どんな方法でもいい。あの綺麗な姿をもう一度みたい。褐色の肌と金色の髪、人とは違う長い耳、鱗が赤く輝く蛇の体、こちらを射止めるような綺麗な瞳、ぜんぶ、ぜんぶ綺麗で頭から離れない。

「ラミアさん、すっごく綺麗だった……」
「あら、嬉しいわ」

 ぽつりと呟いた独り言に突然返事を返され、少年はベッドから飛び起きた。声のした窓際の方に目を向けると、そこには踊り子のラミアが月明かりを背に佇んでいた。口元と胸、秘部を薄布で隠した、少年が見た時のままの姿だった。


 一瞬幻覚かと思った少年だったが、「こんばんは」と言いながらするりと近寄って来た彼女は本物だった。少年は状況が理解できずに「え?え?」と繰り返し呟いては頬が熱くなっていくのを感じた。獲物を逃がさぬよう、蛇の半身が自分の周囲にくるりと円を描いている事も知らずに。

「今日、私を見てた子よね?」
「え、あ……はっ、はい!!」
「ふふ、私の体……どうだった?」
「か、からだ?」
「とぼけなくてもいいのよ、おませさん
#9829;」

 少年が首をかしげると、ラミアも「あら?」と同じように首を傾けた。

「きみ、『ここ』に泊まったってことはそういうことでしょ?」
「え、ここって?」
「なぁんにも知らないのね……
#9829;」

 ラミアはベッドから降りると、壁際に移動して少年を手招きした。少年もベッドから降りて壁に近づき、ラミアに促されるままに壁に耳を当て、そしてすぐに目を見開いた。壁の向こうから僅かに聞こえるのは、間違いなく男女の交わりの嬌声だった。

「ここはね、さっきキミがいたお店の女の子を連れ込む場所なの。だからキミもそのつもりだと思ったんだけど……違うのかしら?」

 少年は壁から耳を離して真っ赤な
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