ずっとほしかったもの

 そのお姉さんは湖のほとりにいた。

 湖よりも、もっとずっと綺麗で透き通った水色の髪が流れる水のように風に揺れている様子が美しくて、目を離せなかった。人並み外れた美しさだと思ったし、実際お姉さんは人ではないとすぐに分かった。お姉さんの体は腰回りあたりまでは人間だけど、下半身は馬になっていた。ちょうど馬の首の根元あたりか人間の上半身が生えているような……ケンタウロス種のようだ。その馬の体もつやつやした美しい青毛で、ぼくは湖の妖精だと本気で思った。

 澄んだ湖に美しい姿を映すその姿はひとつの絵画のようで、ぼくは時間も忘れてずっと見てしまっていた。やがて彼女はぼくに気がつき、優しく微笑みかけてくれた。盗み見ていた事を怒ることもなく、話し相手になってくれた。

 それが、ぼくとケルピーさんの出会いだった。



 それ以来、ぼくは1日の終わりには湖まで遊びに来るようになった。お姉さんはいつも穏やかで優しくて、ぼくみたいな子供と話すのが楽しいと言ってくれた。

 初めはその日にあったなんでもないこと。どこの食べ物が美味しいかということ……そんなつまらない話でもお姉さんはいつも親身になって話を聞いてくれた。

 そのうちにぼくはだんだん辛いことも話すようになった。お仕事が大変なこと、ぼくは家族も友達も居ないひとりぼっちなこと、ずっとずっと寂しかったこと……ケルピーのお姉さんはぼくが話すことを全部理解して受け入れてくれた。ぼくが話し終わった後、お姉さんは決まってぼくの頭を撫でてくれる。優しい手つきで、まるで本当のお姉さんのように……それがとても好きだった。

 そんなことを続けてしばらくした頃だろうか。ある日の晩にいつものように湖へ遊びに行った時、お姉さんはぼくに問いかけてきた。

「お姉さんのこと、好き?」

 お姉さんの瞳は月の光を受けて銀色に輝き、吸い込まれそうなほど綺麗だと思った。その美しい瞳に見つめられるとドキドキした。だから、ぼくは慌てて視線を逸らしながら──ぼくも、お姉さんのことが好きだと告白した。

「……あは
#9825; そっかぁ
#9825;」

 お姉さんは嬉しそうに微笑んで両手を広げた。ぼくは嬉しくなってその胸に飛び込んでしまった。ぎゅうっと抱きついて火がでるくらい熱くなった顔をお姉さんのおっぱいに押し付けてしまう。体が勝手に動いてるみたいだった。それでもお姉さんは怒らず、むしろぼくを抱きしめて優しく頭を撫でてくれる。それがすごく心地よかった。普段なら恥ずかしくて言えないような言葉が簡単に口から出てくる。

「お姉さんっ、おねえさん……すき、すきっ……
#9825;」
「私もだよ
#9825; きみのこと大好き
#9825;」
「ああっ
#9825; うれしいっ、ぼく嬉しいよ……っ
#9825;」
「ふふ
#9825; きみって本当に──」

「──おばかさん
#9825;」

 いつもより低い声で囁かれると同時に、お姉さんはぼくを抱き締めたまま湖の中に飛び込んだ。ぼくはお姉さんにしがみついたまま、冷たい水の中へ引き摺り込まれた。驚くぼくの目の前にあったのはイジワルな笑みを浮かべるお姉さんの顔。こんな顔、初めてみた。

「お、ねえさ……?」
「ふふふ
#9825; ごめんね? 私ね、ずっときみを私のモノにしたかったんだぁ……だから捕まえちゃった
#9825;」
「……え?」
「魔物娘に向かって家族も友達もいないですーなんて言っちゃダメよ
#9825;探しにくる人も私を退治しにくる人もいないチョロい男の子ですって告白するようなものだもの
#9825;」
「……ぇ?」
「もうきみは私のもの
#9825; どこにも行けない、誰とも会えない、私から離れられない……
#9825; だって、私から離れると溺れ死んじゃうんだもの
#9825;」

 なにを言われているのかきちんと理解できなかった。さっきから、何か変だ。頭がぼーっとしてちゃんと考えがまとまらない。ほてった体に冷たい水が気持ちいいとか、いじわるな顔しているお姉さんも綺麗だなとか、お姉さんとぎゅっとできて幸せだな……そんなことしか考えられない。

「でもいいよね? きみはお姉さんのこと大好きだもんね
#9825;」
「す、き……? うん……お姉さんのことすき……
#9825;」
「そうだよねぇ
#9825; 素直なコにはご褒美……
#9825;」

 綺麗なお姉さんの顔がゆるやかに近づいてきて、ぼくの唇に触れた。柔らかい感触がして、すぐに離れていく。お姉さんと、キスしてしまった──ぼくが自分の顔がいっそう熱くなるのを感じていると、お姉さんはくすくすと笑ってからもう一度唇を重ねてくる。今度は長く、さっきよりも強く押し付けてきた。ふにふにと柔らかい唇の感触の後お姉さ
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