ツガイに堕ちた少年

 少年はボロ布で身を隠していた。

 両手で口もと押さえて息を潜め、震える体を必死に抑え込む。ボロ布の隙間から外の様子をうかがうと、悲鳴をあげながら空へと連れ去られる男が見えた。少年は外を見てしまったことを後悔しながらボロ布を頭から被り直し、目をきつく閉じた。その目の端には涙が滲む。

(助けて、お願い誰か助けて……っ!)

 この山岳地帯は魔物がでると噂があった。そのためここを通る者は屈強な用心棒を雇うか、おいそれと襲えない規模の大人数で進むのが常だった。少年はそんな金もツテもなかったが、なんとか山岳地帯の先へ行きたかった。明確な目的があったわけではない。大きな街に出れば自分も大成できるという、若い無鉄砲な夢が動機だった。

 家も家族もない少年を止めるものなどおらず、彼は行商人たちの荷台に潜り込み、この道をやり過ごそうと思っていた。3、4の行商隊が共に行くと聞いていた少年は、まず大丈夫だろうと数多くある荷台のひとつに身を潜めていたのだった。

 だが、不運なことにこの行商人たちは魔物に目をつけられていたのだ。待ち伏せされ、大した抵抗もできずに黒羽の魔物たちに1人残らず拐われてしまった。数十人いた行商人や護衛の傭兵たちは、皆何処かへと連れ去られ、後に残されたのは少年だけだった。

 悲鳴や物音が聞こえなくなると、少年はボロ布から再び外の様子を伺った。見えたのは壊れた荷車や散乱した荷物。それに岩肌や砂と土の道だけで、人や魔物の気配はなかった。自分は助かったのだと安堵の息を吐いた――ちょうどその瞬間、彼の目の前に何かが降り立った。少年は全身が凍りつくような恐怖で体を硬直させ、ボロ布の隙間から様子を伺った。

 見えたのは、巨大な黒い足。
 厚い鱗に鋭い鉤爪。
 先程まで行商人たちを襲っていた魔物。

「あーあ、もう終わった後か……」

 低い女声で魔物が呟き、辺りに散らばる積み荷の残骸を足でいじくり始めた。少年は再び呼吸を止め、目をきつく閉じて一度も祈ったことのない神に助けを求めた。がらがらと壊れた荷台を探る音だけが、断続的に少年の耳に入ってくる。

「……なぁんもないか、じゃあ帰るかな」

 黒羽の悪魔は、大きな黒い翼を羽ばたかせて飛び上がった。少しして、また何も聞こえなくなった。少年は今度こそ助かったと大きな息を吐いたが、それを合図にしたかのように、ボロ布が思い切り剥ぎ取られた。

「ひぃっ……!」

 少年が細い悲鳴を挙げて魔物を見上げると、彼女は笑みを浮かべていた。罠にかかった獲物を見る、嗜虐的な笑みだった。黒い羽先を上機嫌にはためかせ、口角を引き上げた笑みを浮かべ、長く尖った耳を楽しそうにぴくりと動かす。

「おやおや、こぉんなところでかくれんぼか
#9825;」
「う……うわああああっ!」

 少年は叫び声と共に駆け出した。魔物は――ブラックハーピーは喉の奥で心底可笑しそうに笑うと、地を蹴って飛び上がり、必死に逃げる少年にあっという間に追いつき、つんと足でつついて地面へ転がし、覆い被さった。

「なあお前、人間の足でハーピーから逃げられるわけねえだろ?」
「ひっ、やめ、やめてえっ!!」

 少年はブラックハーピーの鋭い爪が恐ろしく、涙を流しながら足をばたつかせた。だが、魔物の力に細い少年の力ではかなうはずもなかった。徐々に抵抗する力も弱まってきて、小さな少年の胸中を絶望が覆う。

「あーあーうるせえなあ……
#9825;」
「やめてっ! や……んむう──!?」

 黒い鳥人はにんまりと笑うと、少年に顔を近づけ──口づけをした。

 驚きで目を見開く少年をよそに、ブラックハーピーは夢中で彼の口内を貪った。ぬるりとした長い舌が小さな口を蹂躙し、悲鳴をあげようとした舌に絡みつき引きずり出し、なぶる。逃げようと横に動かした顔を翼で捕え、再び口づける。

「逃げんなっての
#9825; んちゅ
#9825; れぇろ……
#9825;」
「ん、や……っむう……んっ……
#9825;」

 ブラックハーピーがぬるぬると舌でしつこく性を煽れば、無理矢理にされているキスでも効果は出てくる。押さえつけられている少年の体から力が抜けていき、もじもじと足をすりあわせる。その口からこぼれる吐息には、甘い響きが混ざり始めていた。

「んちゅ
#9825; れるれる
#9825; んぅ
#9825;」
「ん、ふぁ……
#9825; んむ、んんっ
#9825;」

 険しい山岳地帯、荒道の端で二人は甘く息を吐きながら舌を絡める。ブラックハーピーはたいそう楽しげに、少年の舌を絡めて蹂躙し続け──たっぷりと味わったところでようやく口を離す。

「ぷは……
#9825; よしよし、いい顔になったな
#9825;」
「は、へ……
#9825;」

 解放さ
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