ひとりキャンプにご用心

「ああ、やっちゃったなあ……」

 少年は――ネイは、暗い森の中でため息をついた。彼は今、ギルドの仕事の息抜きにキャンプに来ていた。仕事と言っても少年の年齢では手伝えるのは日雇いの掃除やら荷物整理やらで大した稼ぎにはならない。だからキャンプ道具をそろえるのも一苦労だった。ようやく一式そろえて、前々から目を付けていたスポットにテントを張り、火を起こしたまではよかったが、食材を忘れてしまったことに気が付いたのだ。

 食料を調達するにもすでにあたりは真っ暗だ。この辺りはなんども下見で来ているし、危険の少ない場所と知っていたが、オイルランプや松明の少ない明りで歩き回るのは危険だろう。

 ネイは、結局食糧調達はあきらめて、テントの中に入って荷物を広げた。お腹がすく前に早々寝てしまおう、と思って寝袋を広げ始めたネイだったが、火を消そうとテントから出ると同時に、ぐう、とお腹が鳴り、少年はため息をついて項垂れた。

「はぁ……」
「……君、どうかしたの?」
「えっ!?」

 突然の声に驚いて頭上を見上げると、そこには魔物娘が羽ばたいていた。月明かりに照らされた大きな羽にモフモフとした体毛の魔物娘、モスマンだ。モスマンは月明かりを背に、にこりと微笑んだ。初めて魔物娘に出会ったネイは、固まって動けなくなってしまった。魔物娘は人間を食べるとか、連れ去ってやっぱり食べるとか、そんな噂を思いだしたからだ。

 ネイが何もできないまま見上げていると、モスマンは地面に降り立った。大きな翼の他にも頭のてっぺんに触角があり、彼女が魔物娘だということを証明していた。だが、白い長髪は月明かりに照らされきらきらと輝き、その顔立ちはギルドでもそうはいないほどの美貌だった。少し幼さの残る顔立ちだが、少年に比べれば大人びた印象受ける整った顔立ちだった。

 視線を落とせば、彼女の豊満な肉体が目に入った。少年の手のひらに、いや大人の手でも到底収まらなさそうな大きな乳房、むっちりと丸みを帯びた尻肉までもが、ふわふわの体毛の間から惜しげもなくネイの前に晒されている。女性と手をつないだことすらないネイは、つい彼女の体を見つめてしまったが、目の前の魔物娘はそんな視線を受けてもにこやかに立っている。

「私はファラエナ。こんな夜中にひとりで何してるの?」
「いや……その……」
「もしかして迷子?」
「いえ、キャンプに来たんですが食材を忘れて……」
「それは大変」

 ファラエナは微笑むと、懐から木の実を取り出した。それは宝石のようなピンク色の果実で、ハートの形をしていた。中が透けて見えてしまいそうな薄皮を、彼女は慣れた手つきで剥くと、ぷるぷるとした乳白色の果肉を少年の前に差し出した。

「これ食べれるよ?良かったらどうぞ」
「で、でも……」
「大丈夫、毒なんて入ってない」

 そういうとファラエナはその果実に歯を立てた。乳白色の果肉がぷるりと齧り取られて、白い果汁が彼女の口元から一筋流れ落ちた。ファラエナはその雫を指で掬い取り、舌で舐めとった。ネイにはその仕草が異様なまでに魅力的に映った。ごくりと鳴った喉の音は、食欲以外の熱も含んでいることにネイ自身は気づいていなかった。ファラエナはまた微笑み、再び果実を差し出した。

「ほら、甘くて美味しいよ?」
「あ、ありがとうございます……」

 ネイは言われるがままに果実を受け取り、口を付けた。実際、その果実は非常に美味であった。ぷるぷるした果肉からあふれる果汁は甘く、いくらでも食べられそうだった。夢中でひとつたいらげ、もうひとつを受け取ったところで、ふと自分が名乗っていないことに気が付いた。

「あの、僕の名前は……」
「ネイ君、だよね。知ってる」
「え、どうして?」

 ネイの問いに答えずに、ファラエナはただ微笑み、大きな羽をはためかせながら果実を食べるよう促した。ネイは戸惑いながらもそれを受け取り口に運ぶ。かじると甘い果汁が口に広がり、するりと喉の奥へと流れていく。果実を食べるネイを見下ろしながら、ファラエナは小さく舌なめずりをしたが、ネイは気がつかなかった。

 少年が焚火の前に置いた倒木に腰かけて食べていると、ファラエナもその隣に座り果実を口にした。ネイはとなりに座ったファラエナが、どんどんと魅力的な異性に見えてきた。ドキドキと高鳴る胸は今までに感じたことのない恋心を少年に自覚させた。

「さあ、今度はこっちのも食べてみて」
「は、はい……あむ、じゅる……」
「飲み込まないで、少し待ってて」

 自分の差し出した青い果実が少年の小さな口で食まれていくのを、ファラエナは羽をふわふわと動かしながら優しい目で見ていた。ネイの口を優しく拭き取ってから、赤い大きな果実を口に含んだ。ファラエナはそれをゆっくりと咀嚼しながら少年を見つめた。ど
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