大好きリーシャおねえちゃん

 お父さんもお母さんも、何度も繰り返し窓の外を見るぼくを笑った。

(まだかな……)

 うろうろ落ち着きのないぼくを、お母さんが「落ち着いて座ってなさい」と叱ったその時、窓の外、空の向こうに小さな影が見えた。ぼくは家から飛び出し、その影にぶんぶんと手を振った。

「リーシャおねえちゃーん!!」

 そのまま少し待てば、ぼくが待ち焦がれていた人が空から降りてくる。ぼくが待っていたのはハーピーのリーシャおねえちゃん。ぼくの大好きなおねえちゃん。

「リオくんただいま……あはっ」

 降り立ったリーシャおねえちゃんに抱きつくと、おねえちゃんは怒ったりせず笑顔でぼくを抱き止めてくれる。ぎゅっと背中に手を回せば、ふわふわとしたハーピーの羽でぼくを包んでくれる。
 むにむにと柔らかいお姉ちゃんの体と、ふわふわとした羽、ぼくの全身がリーシャおねえちゃんに包まれている。体の奥にぽかぽかとした気持ちよさを感じながら、おねえちゃんを見上げると、にっこりと笑顔を返してくれる。

「おかえり、リーシャおねえちゃん」
「よしよし、ただいま」
「ほら、お姉さんはまだお仕事があるんだから離れなさい」
「あ、今回の配達も無事済みました!これお金です!」

 リーシャおねえちゃんがお金の入った袋を手渡すと、お母さんは驚いたような顔をした。

「リーシャちゃんの分ちゃんと引いてあるかい?」
「はい!ここの商品は品質がいいので割り増し料金で引き取ってもらえました!」
「じゃあリーシャちゃんの取り分がもう少しないと」
「いえいえ!それよりご贔屓にしてもらえれば……」

 ぐい、とおねえちゃんの服を引いた。
 体を押し付け、上目遣いでおねえちゃんの顔を見る。
 
 そうするとリーシャおねえちゃんは、ぼくを羽根で包み込んでさっきとは違う笑顔をぼくに向ける。じわ、と体の奥の方が熱くなるような笑顔。ばさりと羽根の包みが解かれると、おねえちゃんは元の顔に戻った。

「あー……っと、それじゃあリオくんお借りしていいですか?」
「そんな、この子の世話まで頼むなんて悪いよ」
「いいんです!私もリオくんといると楽しいんです!!」

 おねえちゃんとお母さんが何かやりとりしている間、ぼくはずっとおねえちゃんにくっついていた。お仕事の後のおねえちゃんからはいつもより濃い匂いがする。おねえちゃんの体に顔を埋めてすぅ、と息を吸い込む。

(おねえちゃんの匂いだ……)

 もう一度顔を押し付けて深く息を吸い込むと、おねえちゃんは「んっ」と小さく声を出してぴくんと体を動かしたけど、お母さんは気がつかなかった。いつの間にか出てきたお父さんもおねえちゃんと何かを話している。だけど、ぼくはおねえちゃんの匂いを嗅ぎながら、おねえちゃんの事ばかり考えていた。

「……そんじゃあ申し訳ないが、ウチのボウズの世話も頼むよ」
「はい!おまかせください!夜にはリオくんお返ししますので!」
「次の荷物はちょっと時間がかかるからなあ。よければ明日の朝まで……」
「あんた、いい加減にしな!リーシャちゃんも用事があるんだよ!」

 お父さんの言葉に、ぼくはぴくっと反応してしまった。

「……私はヒマですし、全然問題ないですよ!」

 おねえちゃんはさりげなく、ぼくを抱き締める力を強くしながらそう言った。柔らかな羽が、さりげなくぼくの下半身を撫で始める。くるくるとヒザをなでられ、ふわりと内ももを撫で上げられて、ぼくはぴくぴくと震えてしまう。おねえちゃんが羽根で隠してくれるから、お母さんたちはそれに気が付いていない。

「そんな申し訳ないよ」
「次の荷造りとか忙しいでしょうし、リオくんさえよければ……ね?リオくん?」
「う、うん……ぼくおねえちゃんと居たい……!」
「あんたね、お姉さんの迷惑も考えて……」

 お母さんとリーシャおねえちゃんは何かを言い合っていたけど、ぼくはおねえちゃんのことで頭がいっぱいで何をいっているか聞き取ることもできなかった。お母さんが無理矢理おねえちゃんにお金を渡して話は終わったみたいだった。
 リーシャおねえちゃんはお母さんたちと一言二言言葉を交わすと、ぼくの肩を掴んで空へと飛び上がった。ぼくはお母さんとお父さんの上から「いってきます」とだけ機械的に口にだした。

 手を振る2人の姿はすぐに見えなくなり、ぼくとおねえちゃんは空で2人きりになった。空の上は少し寒いはずだけど、ぼくは体が熱くて仕方がなかった。

「リオくん、今日はずっといっしょにいられるって……
#9825;」

 おねえちゃんの甘い声が頭の上から聞こえた。ぼくは心臓のドキドキが切なくて何も言えず、黙って肩を掴むおねえちゃんの足に手をのせた。頭上でおねえちゃんはもう一度甘く息を吐いて、ぐんとスピードを上げた。


     ◆



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