駆け出し冒険者くんたちと10人のお嫁さん

 僕たちは念願のパーティーを組んで冒険に出かけた。

 村一番の力持ちの戦士くん、村の教会で勉強して回復魔法を使えるようになった僧侶くんと、見習い冒険者の僕、合計三人のパーティーだ。僕はまだ全然強くはないけれど、この二人がいればどんな魔物でも倒せる気がする。

 住み慣れた村からでるのは少し寂しい気もしたけれど、もともと僕たちは親兄弟はいなくて、三人が家族みたいなものだった。だから全然へっちゃらだった。仲良くお話ししながら旅をして、初めて来たこの街で僕たちは初めてのクエストを選んだ。

「それじゃあこれをお願いします!」

 受付のお姉さんに渡したのは、虫退治の依頼書だった。とある町の家に虫が住み着いたらしく、退治してほしいという内容だった。虫退治という簡単なクエストのわりに報酬額が高くて、三人ともこれをやろうということで意見がそろったた。

「あー……はいはい、登録しましたよー。ギルド外部の依頼なんで、報酬は現地で雇い主から直接受け取ってくださいねー。そんじゃあ、気をつけてねー」

 僕たちは受付のお姉さんに依頼書に印をもらって、初めてのクエストに向かった。ドキドキしながら街を出て、遠く離れた別の街に向かって歩き出した。

「……そういえば、こんなクエスト来てたかしら?」



「ひぁっ、やだっ! やめてぇ……!」

 僕は今、廃屋の地下で虫に囲まれていた。虫といってもただの虫じゃなかった。ゴキブリみたいな姿をした、魔物だった。クエスト先の街で、翼と角の生えた不思議なお姉さんがいた。依頼主だと名乗ったお姉さんに案内されたこの場所には、虫の魔物が大量にいた。逃げようとしたら鍵をかけられてしまって、閉じ込められた。

「た、助けて……!」

 戦士くんと僧侶くんも、武器を取り上げられて魔物に組伏せられている。薄暗い地下でいきなり襲われたうえに、依頼書には2、3体と書いてあったのに、ここには30体くらいの魔物が待ち構えていた。

「くそぉ……! はなせぇ!」

 戦士くんは必死にもがくけど、抜け出せないみたいだ。力持ちで筋肉もすごい戦士くんが抜け出せないなら、僕なんか到底無理だ。

「う、くぅっ……!」

 僧侶くんも必死に抵抗しているけれど、やはり逃げられないようだ。何度か光魔法を試そうとしていたけれど、魔物に押し倒されて杖を遠くに放り投げれられてしまっていた。

「んっ、やめ、てぇ……!」

 僕の手にも武器はなく、素手で押し返そうとしても全然効果がない。買ったばかりの剣は新品のまま、冷たい地下の床に転がっている。剣だけでなく、魔物たちは僕の革鎧も剥がし始めた。最低限の急所を守るくらいの簡単な装備は、あっという間に脱がされてしまう。

 このまま食べられてしまうのか。
 初めてのクエストでもうおしまいなのか。
 あのまま村に居ればよかった。

 ああ、冒険者になんてなるんじゃなかった――。

「いやだぁ……! 誰か助けて……」

 僕はじわりと涙を滲ませながら呟くけど、誰も助けになんてきてくれなかった。離れたところから、僧侶くんの小さな命乞いの声が聞こえる。戦士くんはまだ抵抗してるみたいだけど、その声は震えていて、さっきまでの語気の強さもなくなっている。

 ついに僕たちは服すらも取り上げられて、丸腰の状態で魔物に押さえ込まれた。ああ、もう駄目なんだ。このまま食べられて死んじゃうんだ。とめどなく溢れる涙の向こう側から、魔物の顔が近づいてくるのが分かる。僕たちはこのまま食い殺されてしまうんだ――。

「う、やだぁ、うぅっ……ぅ……んむっ!?」

 その魔物は首筋に噛みつくでもなく、頬肉を齧りとるでもなく、なんと――僕にキスをしてきた。

「んんっ……ぷはっ!……えっ?」

 突然の出来事に驚いて目を見開く。目の前には魔物の顔が――女の子の顔が目の前にあった。さっきまでは恐怖で気がつかなかったけど、虫の魔物は女の子だった。手足や羽はゴキブリそのものだったけど、顔と体だけは人間の女の子だったのだ。

「はあっ、あ……んむっ、んっ!」

 蕩けたような笑顔がまた近づいてきて、ちゅっ、ちゅっと繰り返し口づけされる。柔らかくて生暖かい感触が唇に触れるたび、恐怖は薄れていく。ぬる、と舌が入り込んできて、ぬるついてあったかい舌で口のなかをなめ回されると、今まで感じたことのない熱が体の奥からぶわっと全身に広がって、頭がぼおっとして何も考えられなくなる。

 僧侶くんと戦士くんが押し倒されていた方からも、唇が吸い付くような音と、ぴちゃぴちゃと舌がうごめく音が聞こえる。二人も魔物にキスされているみたいだ。最後にぺろりと舌先で舐められて、ようやく解放されたときには全身の力も抜けていた。

「んちゅ、んんっ……ぷあ……」
「あはっ、みんな可愛い……

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