少年が生ごみを漁っていた。
身寄りも働き先もないこの少年が、空腹を紛らわすにはそれしか方法がなかった。ゴミ箱からパンや野菜の屑を拾い上げ、幼い口元に運ぶ。腐りかけのひどい味と臭いに吐き戻しそうになるが、それでも何も食べないよりマシだった。口に入れた生ごみを無理やりに嚥下すると、少年は今日の寝床を探しにふらふらとスラム街を彷徨う。
少年の幼い黒髪はごわごわと絡まり、汚れきっていた。服も薄汚れボロボロの布切れ一枚で、もはや着ている意味がないくらいだった。その下の細く骨ばった体にも垢がこびりつき、すえた臭いが漂っていた。
そんな姿になってもなお、少年は生きるために歩いていた。
ただ死にたくないから日々を生きる。
少年の人生はおおむねそのようなものだった。
ふと、少年の視線の先にいびきをかいて眠る男が映った。近づいてみると強い酒の匂いがした。スラム街で酔って寝るなど命知らずな男だ、少年はそう思った。男の身なりは悪くなく、少なくとも少年のような浮浪者ではなかった。男の懐を探ればきっと幾ばくかの金貨が出てくるはずだ。少年は眠っている男のポケットに手を伸ばしかけ、やめた。浮浪児になって垢にまみれてなお、少年の心は汚れてはいなかった。
「……はぁ」
少年は寝こけている男を隠すようにゴミ袋を乗せると、また行く当てもなく歩き始めた。雨露をしのげる場所を探して歩くうち、少年は人気のない路地裏に入り込んでいた。薄暗いその場所で少年はよろけて壁にもたれかかった。
もう動けなかった。死にはしないだろうが、体力の限界だった。大通りで寝るよりかはマシだろうが、せめてゴミでもいいから柔らかいものの上で寝たい。そう思った少年がふらつく足を一歩踏み出した、その時だった。
「――――あっ!」
足元のマンホール蓋が外れ、少年は下水道に落下してしまった。不意に真っ暗な空間に投げ出された少年は死を覚悟したが、落下地点は意外にも柔らかかった。どぷん、と水のクッションのような感触が全身の衝撃を受け止めてくれた。少年は安堵したが、すぐに顔をしかめた。強烈な臭いが鼻をついたからだ。排泄物とは違う、どこか金属的な激臭は、目の前に浮かぶ薄緑の泡のようなものが弾けると、いっそう強く臭った。
「なんだ……これ……っ、くさい……っ」
少年は息を止めながら、早くここから離れようと立ち上がった。ぶにぶにと不安定な足場によろける少年の行く先を、何かが塞いだ。それは、緑色のゼリー状の体を持った半透明の生き物――スライムだった。少年が落下した水のクッションはバブルスライムの体だったのだ。
その生物を見た瞬間、少年の背筋にはぞっと悪寒が走った。本能的に感じ取ったのだ。この生物は危険だと。少年は慌ててその場を離れようとしたが、すでに遅かった。ずるり、とその不定形の体が少年に巻き付いてきた。
「うぁあっ、嫌だ! 助けて!!」
必死に抵抗するも、体力の消耗が激しい少年はすぐにぬめぬめとした粘液に包まれ、完全に体を取り込まれてしまった。鼻をつく激臭がさらに強まり、少年は意識がもうろうとして来た。それでも最後の力を振り絞って抵抗をする少年の目の前に、またしても何かがずるんと音立てて現れた。
それは緑色のスライムだったが、その姿は人間を模していた。胸の部分には少年の頭ほどの大きく膨らみがあることから、女性を模しているのだとわかった。下半身の部分は膝のあたりまでは人間の足のような形をしていて、そこから下は異臭を放つ粘液の塊だった。女型のスライムはその両手を伸ばすと、少年の顔に触れた。
(ひっ……!?)
冷たい指先で触れられた少年は思わず身をすくませた。このまま溶かされて食べられる、少年がそう思った次の瞬間、バブルスライムはぐっと顔を近づけて、少年に口づけをした。舌を入れられ、唾液と共に生暖かいどろりとしたものが喉の奥に流れ込んできて、少年はむせ返った。
「んむっ!? んぐっ、けほっ、んむうぅっ!!」
いやいやと首を振って抵抗する少年に構わず、バブルスライムは舌を差し込む深いキスを続けた。どろりとしたものが少年の喉を通りすぎると、彼に異変が起きた。先ほどまで感じていた激臭がなくなっていたのだ。それどころか、少年の鼻孔を抜ける香りは、甘く、脳髄を蕩かすようなものに変わっていた。
「んむ、んちゅ……れろぉ……」
「あぅ、んっ、やめっ……んむ、んんっ……!」
少年の言葉などお構いなしに、バブルスライムはなおも少年の小さな口内を嘗め回し、粘液を喉奥へ送り込む。少年がいくら暴れても、バブルスライムの体はびくともしなかった。次第に少年は抵抗する力を弱め、ついには自分から舌を絡め、口内に注がれる粘液を舐め取り始めた。少年はバブルスライムとの接吻に夢中にな
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