ようやくたどり着いた街を、ぼくはうろうろと歩き回っていた。
この城壁の中の街には、お金を貯めたら一番に来たかった。辺境の村で生まれたぼくは、この街を遠くから見てずっと憧れていた。だから12歳になって働けるようになったらすぐ働き、お金を貯め続けて数年。今日、やっとここに来たというわけだ。
ここに来るまで、そしてここに入るのにお金は全部使ってしまったけれど、後悔はない。元々親兄弟もいないから、自分のためだけにお金が使える。ひとりというのは寂しい時もあるけれど、そういうメリットもある。
とはいえ、お金は底をついてしまったので、なにかお仕事を探さなければならない。観光気分を切り替えて、なにか荷下ろしか荷物運びでも募集していないかと酒場に足を向けた。
「えへへ
#9825; こんにちはボク
#9825;」
するとその道中に、突然声をかけられた。周囲を見回すと、物陰から手招きする人が見えた。近寄ってみると、路地裏にウサギの魔物娘がいた。上半身こそ普通の女の人だったけど、頭にはワインのような色のウサギ耳が生えていて、髪の毛もピンク色とワイン色の半々だった。下半身はもこもこでピンクな不思議な毛皮に覆われた獣の足で、魔物娘だということがすぐに分かる姿だった。
ぼくの村の周辺には魔物娘は少なくなかったから、魔物娘自体は見たことはあった。でも、路地裏に居たお姉さんの姿を見てぼくはドキッとした。ウサギのお姉さんはとっても美人で、まるで物語に出てくるお姫様のように可愛くて綺麗だったのだ。しかもそんな人に笑顔で手を振られれば、どんな男の子だって照れてしまうはずだ。
なにより耳や髪と同じワイン色の服は、布の面積が少なくて、大きなお胸がこぼれ落ちそうになっていた。お腹にはしっかりくびれがあるのに、全身にむちむちとお肉が付いていて、思わず見惚れるほどのスタイルだった。ぼくは顔が熱くなるのを感じてしどろもどろになってしまう。
「あの、えと……」
「あのね、美味しいチョコレートがあるんだけど、食べたくない?」
ウサギのお姉さんはいきなりそう言うと、懐から板状の包みを取り出した。ぼくは、チョコレートという言葉に思わず唾を飲み込む。そんな高級なお菓子なんて食べたことがない。村で食べられる甘いものなんてハチミツくらいだ。チョコレート、食べてみたい……でも、この人は悪い人かもしれない。お菓子を餌に攫うなんてよくある話だ。チョコレートは食べてみたいけれど、知らない人からもらったものを食べるなんて絶対にダメだ。
「お姉さんはね、ウサギさんだからお野菜しかたべないの
#9825; だからせっかくもらったのにもったいなくて、だからたまたま通りかかったボクにあげたいなって
#9825; だから遠慮しなくていいんだよ
#9825; ほら、一口食べてみて
#9825;」
ウサギのお姉さんはぼくの思考を読み取ったかのように優しく語りかけてきた。ポケットの中から取り出した長方形の包みを剥いて、その中身をこちらに差し出してくる。茶色い板のようなお菓子、チョコレート……初めて見た。それになんていい匂いなんだろう。甘くて蕩けるような香りが漂ってきて、嗅いでいるだけで頭がぼんやりしてくる。チョコレートってこんなにすごいものなんだ……。
気が付けば、ぼくはお姉さんが差し出したチョコレートを食べてしまっていた。ぱきり、と音立てて少しだけ齧ると舌の上で溶けていった。とても濃厚なのに後味はしつこくなくて、溶けた甘い液体がとろりと喉を通り過ぎる。すごく美味しい、もっと味わいたくてもうひとくち。ぱくりと口に含むとすぐに溶けていく食感に夢中になって、もう一回もう一回って食べ進めてしまった。一口食べるごとに、体が熱くなっていく。でも止められない。
「どうかな
#9825; 美味しいでしょ
#9825;」
「うん、おいしい……
#9825;」
「よかったぁ
#9825; ほら、どんどん食べていいんだよ
#9825;」
お姉さんが差し出してきたチョコレートを、またひとくち齧る。甘くて美味しい。お姉さんはどうしてこんなにおいしいチョコレートをぼくにくれるんだろう。優しくてえっちな格好のウサギのお姉さん。ああ、ぼくは何を考えているんだろう。ぱきり、美味しい。甘い。チョコレート好き。ぱきり。美味しい、優しい味。お姉さんがくれるチョコレート好き。ぱきり。お姉さん好き――。
「あは
#9825; お顔がとろーんってしてきたね
#9825; さすが『帽子屋』さんのチョコレート……
#9825;」
「ふぁ
#9825; はむ、んく……
#9825;」
「どうしたのかな
#9825; もう立ってられないのかなぁ
#9825; いいよ、お姉さんにつかまって
#9825; お姉さんのお
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
8]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想