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「ただいま〜」

勝手口のドアを開けながらいつも通りにただいまの挨拶をする。

定時で退社し、電車に揺られて25分。そこから更に自転車をかっ飛ばして15分走る。それが愛しの我が家への帰宅方だ。
車が入っていない車庫に自転車を止め、玄関へと向かう。
持ち家率全国トップの富山県民と言えども流石に同期で一軒家を持ってる奴はいない。ましてや車なんとてもだ。この家は勿論ローンでの支払いだが、2人で暮らすには丁度良い位の大きさで、彼女が休日に選んでくれる家具が内装を彩っている。


「あ。お帰りなさい、晶(あきら)さん。ご飯、もうすぐに出来ますから着替えて来て下さいね」


玄関を通り、靴を脱ぎ始めた所で鈴を転がしたような声が帰って来た。早月(さつき)は台所にいるらしい。
どうやら夕飯を作っている真っ最中のようだ。良い匂いに釣られ、台所への暖簾をくぐる。
そこでは、早月がぱたぱたと動き回りながら何かを炒めたり鍋に火をかけていたりした。
学校から帰ってすぐに作り始めたのだろうか、セーラー服にエプロンを着け、片手でお玉をふりふりしながら火加減を調節している。
料理好きな彼女の事だから、今も楽しくやってくれているんだろう。その証拠に、小金色の頭から伸びる狐耳がぴこぴこしているのが見て取れるし、尻尾もぽふぽふと上下左右に揺れていて、80%位のテンションをしているらしい。
見れば分かると思うが、早月は稲荷だ。
10年前、早月が4歳の時に溺れていた彼女を助けたのが出会いで、それ以来彼女の両親に気に入られて彼女の婚約者、と言う事になっている。
当時の自分は12歳だったので、下手をすれば2人揃ってお陀仏だったのだが、最初は考え無しに、溺れる彼女を抱き留めてからは下心込みで身体が動いていた。まあアレだ。一目惚れという奴だったんだろうと思う。


……それにしても可愛い。
小金色のセミロング、ぴこぴこと動く狐耳、ぽふぽふと上下左右に動き回るモフモフの尻尾、少女から女への過渡期にある肢体、白く眩しく僕を誘惑するうなじ、撫で回したい脚(ニーソ)、絶対領域も堪らない。
存在全てが僕に効く麻薬のような物だ。何をしていても発散される輝きが僕を魅了して止まない。
ゆらゆらと僕を誘う尻尾に釣られるようにフラフラと歩み寄る。尻尾の先の白い部分から目が離せなくなり、動きを目で追い続けてしまう。アレを優しく掴み取って付け根に向かって指を走らせると早月はどんな声を上げるだろうか?口に含んで舐め回すと彼女はどんな表情をするのだろうか?それを知りたいが為に尻尾に手を伸ばし…

「ありゃれ?何やってるんですか、晶さん?」

「ん?いや、何を作ってるのかなーって」

「今日は晶さんの好きな豚肉の生姜焼きです。それに、お義母様からほうれん草を貰ったので胡麻和えを用意しました……けど、どこ見てるんです?」

あ、ばれた。

「いや、尻尾触りたいなーって思って」

何正直に言ってんだ僕は馬鹿か!?

「え!?…えっと、今は、まだ…でもご飯の後なら…」

「ヒャッフーゥ!もふもふじゃー!!」

何を口走ってんだ馬鹿か!?誰だ!?僕だ!!
ほら、早月も何か引いて………無いな、うん。
顔も赤いし、照れてるのだろうか。可愛いなぁ。

「…えーと…あの、ほら、あれです。早く着替えて来てくださいっ。はやくいく!」

早月にそう言われながら背中を押されて台所から押し出されてしまった。可愛い。

やれやれ。しかし、冷静になって考えてみると動く尻尾に釘付けになってる何て少し間抜けな絵面だ。
僕はトンボか何か。そんな自嘲をしつつ、スーツを脱いだ。室内着に着替えつつ、そのふんわりとした肌触りに笑みが零れる。早月が洗っておいてくれたのだろう。少しほつれていた所も元通りになっている辺り流石と言った所か。
早月は家事万能だ。炊事洗濯家事掃除。我が家の家事を一手に引き受けてくれるのは非常に有難いのだが、僕だって家事は一通り出来る。まだ中学校の彼女には学校の友達と過ごす時間をもっと持って欲しい物だ。どうせこの先僕とはずっと一緒に過ごすのだから、ちょっと位友達付き合いにうつつを抜かしても……

「……いや、駄目だな」

脳裏に浮かんだ幻想を投げ捨てる。
彼女が僕以外の事を優先しようとするのなら、多分、僕は彼女を縛り付けて独占しようとするだろう。家から出さずに延々とおもちゃにするに違いない。
…………ん?延々とおもちゃにする?早月を?僕だけが?
うん、それはそれで魅力的な気がしないでも…………。

「晶さ〜ん?出来ましたよ〜、何してるんですか〜?」

はっ!?
………ボーッとしていたらしい。
階下から聞こえて来る早月の呼び声で我に帰る。すぐに下に降りよう。早月の食事を冷めさせる訳にはいかない。


「ごちそうさまでした」

「は
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