「ねえ、メディ。」
「駄目」
「…まだ、何も言ってないんだけど」
「駄目。アレク、絶対、外出禁止」
きっぱりとした口調で、メディは言う。
きゅ、とアレクの身体に絡みつく軟体がさらに圧力を高める。
アレクは頬を紅潮させながら、深々と嘆息する。
「もう熱も下がったし…少し外を出歩くくらいは許してくれない?」
「駄目。まだ、身体の中、治りきってない」
アレクが病に倒れてからこの方、メディはずっとこの調子だった。
ベッドの上から離れようものならすぐに押し止め、必要とあればアレクの身体に密着して動けなくしてしまう。
現に今、メディはベッドの上に座り込むアレクに絡みつき、アレクの動向を監視している。
「ずっとベッドの上だと、身体が鈍っちゃうんだけど…」
「大丈夫。私が、しっかり、マッサージ、してる」
確かに、そう言っている間にも、メディの軟体は優しくアレクの身体を揉み込んでいる。
足や腕の各部がグニグニと刺激されており、おそらくこれにより身体の退化を防いでいる。
しかし、これだけ引きこもりっぱなしだと、自分の意志で動きたいと思ってしまう。
しばらく依頼された仕事から離れていることもあり、どうにもじっとしていられない。
「でもメディ。こう絡みつかれてると、食べ物すら取りに行けないんだけど」
「大丈夫。私が全部、持ってきてあげる。林檎、食べる?」
するすると伸びたメディの軟体が机の上に置いてあった林檎を掴みとり、アレクに差し出す。
…どうにも、過保護が過ぎる気がする。
今朝も、溜め込んでいた水が切れていたので、川まで汲みに行こうとしたのだが、
こっそり外へ出ようとしたところルイに見つかり、すぐさま組み伏せられてしまった。
そして駆けつけたメディに拘束され、以来こうしてずっと捕まっている。
「心配しすぎだと思うんだけどな…」
「油断、しすぎ。アイツ、まだ少しだけ、アレクの中にいる。
アレクは、アイツの怖さ、わかってない」
「アイツ?」
「追い出すの、とても、苦労した。だから、絶対、返さない」
ひし、とメディはアレクの肩に両手を絡める。
話を聞く限りだと、メディは先日の病の事を『アイツ』と言っているように思える。
あの夜のことはよく覚えていないが、メディが何かをしてくれたおかげで、こうして治ったのかもしれない。
それを思うと、メディにこれ以上心配をかけないためにも、大人しくしているべきなのだろう。
しかしそれでも、少しでも余力があると、出来ることをしたいと思ってしまう。
書きかけの契約書とか。
「…アレク。今、お仕事のこと、考えたでしょ」
「あ」
しまった。
いつの間にか、ひやりと冷たいメディの手が後頭部辺りを撫でている。
汗を吸収するためだったのかもしれないが、ついでに思考まで読み取られたらしい。
「アレク、少し元気だと、すぐ無理しようとする。私…こんなに、心配してる、のに」
「ご、ごめん、メディ。でも、やっぱり、少しくらいなら、大丈夫だと思うんだけ、ど…」
徐々に尻すぼみになっていく、アレクの弁明。
目と鼻の先にあるメディの眼は、愛着がありつつもひどく冷たい色をしていた。
何やら、不穏な気配。アレクはごくりと息を飲む。
「わかった。元気がなければ、大人しくなる、よね」
「…メディ?」
「――ルイス。お願い、できる?」
メディらしからぬ、キリリとした物言い。
少し離れた位置で丸くなっていたルイが、ぴくりと片耳を挙げる。
薄く開かれたルイの眼が、メディの視線と少しの間だけ重なる。
次の瞬間、ルイは返事をするように一鳴きして、欠伸をしながら小屋の外へと出て行った。
「えーっと、メディ? 何をするつもり」
「中途半端に、元気だから、アレク、無理する。
だから――アレクの元気、ギリギリまで、搾り取る」
「え」
耳元で艶めかしく呟かれ、アレクは硬直する。
ぐにゃり、とメディの身体がアレクの身体にまとわりつく。
これまでのマッサージとは違い、明らかに性的な意味を持つ動き。
「わ、ちょ、メディ…! ちょっと待って。それ、ヘタをすると、外出するより身体に悪いんじゃ」
「大丈夫。きちんと、調節する。腰が抜けて、動けなくなる、程度に――食べて、あげる」
「ま、まだ陽が高いのに――」
「大丈夫。ねこが、人払い、してくれる。誰も、来ない」
先程のアイコンタクトは、そういう意味か。
いつの間に、メディとルイはそんなことができるほど仲が良くなったのだろうか。
「覚悟、して。アレク――」
「…ッ!」
メディの拘束が、強くなる。その感触に、アレクは違和感を覚えた。
いつものメディなら、全く動けなくなるほどアレクを拘束しない。
しかし、メディの軟体
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