神への誓いと黒い死神。(前編)

注:この物語は、本編のサイドストーリーです。
本編をまだ読んでいない方は、本編を先に読むことをオススメします。
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『聖騎士物語』

昔々あるところに、一人の王様が治める国がありました。

王様は王としては凡庸な男でしたが、とても敬虔な男でした。

彼は毎日のように教会に通い、自国の民の幸せを願っていました。

神がその願いが聞き入れてくれたからでしょうか。

彼の国は争い事もなく、交易の拠点として繁栄を遂げていました

しかしその平和は、突如打ち砕かれました。

彼の国の隣には広大な森が広がっており、そこには一人の魔王が治める国がありました。

ずっと人間と非干渉を守り続けていた魔王でしたが、突如何の前触れもなく王様の国に攻めてきました。

屈強な魔物を引き連れた魔王は、王様にこう言いました。
「お前の娘を私の嫁によこせ。さもなくば、お前の国の民を皆殺しにしてやろう」

それを聞いた王様は、とても困りました。

彼の娘は病弱でしたが、それはそれは可愛い少女でした。

王妃を早くに亡くした王様にとっては、彼女は唯一の家族でした。

しかし、娘を渡さなければ大勢の民が殺されてしまいます。

王様はどうにかして魔王に対抗しうる方法を探しましたが、強大な魔王に立ち向かうすべはありませんでした。

何人もの名を馳せた騎士たちが魔王に挑みましたが、帰ってくる者は一人もいませんでした。

優しく敬虔な王様は、自国の民のために、泣く泣く娘を魔王に引き渡そうとしました。

そんな王様の前に、一人の青年が現れました。

彼は、お金も、功績も、家名もない、ただの村人でした。


「ぅおーい。何だ、その超つまらさそうな童話」
「…っ!」

 突然背後から声をかけられ、アレクはぎょっとして振り向く。
 椅子に座っていたアレクの一歩後ろ辺りに、相も変わらず目付きの悪いヤンが腕を組んで立っていた。

「ごほっ…ヤン。いい加減に、こっそり入ってくるのやめてくれない? 心臓に悪いんだけど」
「一応ノックはしたぞ。返事がなかったからそのまま入ってきただけだ」
「普通、返事がなかったら入ってきちゃいけないと思うんだけど…」
「ああ、ぶっちゃけ入ってこなきゃ良かったと思ってる。
 つーか、何。まぁたお前らイチャついてんの?」
 
 苛立だしげな様子で、ヤンは言った。
 別に、イチャついているつもりはない――と、言いたいところだが、
 確かに、この状況では否定できない。
 
「ねーアレク、続き、早く」
「ん、っ…ごめん。一応、ヤンの要件を聞いてからでいい? 
 もしかしたらマルクさんの伝言とかかもしれないし」
「むー」

 不満そうに、メディは頬を膨らませる。
 そんな彼女の現在位置は、アレクの膝の上。
 椅子に座ったアレクの上にメディが座り、アレクがメディの顔の前で本を広げている状態。

「おいアレク。人が遥々村からこんな山奥まで歩いて来たってのに、水の一つも出ねぇの?」
「そうしたいのは山々なんだけど…」

 アレクはレッドスライムであるメディの体に、しっかりと椅子に縫いつけられていた。
 何気なく、メディに向けてどいてくれるよう視線を送る。
 メディは口を尖らせながらも、しぶしぶとアレクの膝から離れていく。

「それで、今日は…っ…どんな用事?」
「お察しの通り、マルクからの伝言…っつーか、手紙だ。
 だが、それよりもまず水だ。じゃなきゃ酒。村から歩き続けで喉乾いた」
「ヤン、相変わらず、穀潰し」
「ああ?」

 ぎろり、とヤンは平時でも悪い目つきをさらに悪化させる。
 ささっ、とメディは絵本を胸に抱えながらアレクの影に隠れる。
 やれやれ、とアレクは苦笑しながら果実酒をジョッキに注いだ。

「それで、手紙って?」
「これだ。何やら急ぎの用事らしい」

 そう言いながら、ヤンは丸められた手紙を差し出す。
 筒状に丸められた羊皮紙。ただの手紙にしては、大仰な装丁。
 アレクは手紙を受け取ると、慎重に紐を解いて中身に軽く目を通す。

「マルクさんは、なんて?」
「何だかよく分からねーけど、中身を確認したらできるだけ早く返してくれってさ。
 絶対に無くすな、とも言われたな。何なんだそれ」
「手紙っていうか…これ、契約書だよ。僕が前に関わった仲裁の結果、みたいなものかな。
 どこか間違ってたり、変なことが書いてないか調べる必要があるんだよね」
「へぇ…」

 ヤンはジョッキに口をつけながら、ちらりと契約書に目を向ける。
 しかし、すぐに興味を無くしたように視線を外した。
 そしてきょろきょろと、何かを捜すように視線を巡らせる。

「そういえば、あの猫はどうしたんだ? 最近あまり見ねぇけど」
「ああ、ルイの事? ルイは多分散歩中。普段は、ここにいることの方が少ない
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