雪によって銀世界へと変えられた森。その中に建つ鬼灯色の屋根もその雪の中が積もり隠され、雪が崩れ落ちた端の方にその面影を僅かにうかがえた。
「まっこと、恩に着るっ!」
青白い髪の男が胡座で座り、両手を拳にして前に付き頭を下げてそう言った。
頭を下げている相手は黒髪の男と三尾の妖狐。男はファーの付いたコートを着ており、長めの髪の毛を後ろで束ねていた。
「いいえ、依頼だったし。こっちも色々やりたいこともあったから。
あの後別れたから名前聞いてなかったわね?」
「失敬、俺は幟狼(シロウ)。聞いたと思うが『十六夜の銀狼』の頭だ。
この度はこの命を救ってもらった上に、あんなことまでしてもらって…」
『あんなこと』とは龍瞳と魅月尾が幟狼を助けた晩まで話を戻さなくてはならない。
あの夜、6人は屋敷から逃走し町まで下りてきた。町まで着た6人はそのあとの事と幟狼の手当ての事を考え、そこで別れることとなった。
乎弥たち四人はそのまま町を出て拠点の一つへと去り、龍瞳と魅月尾は町の闇へ姿を眩ました。
その夜、町を巡回していた保安の一人は路地裏から延びる白い腕を見つけた。
「なんだ?」
と保安は剣の柄を掴みながらその白い腕が引っ込んだ路地裏に近づき、一気に覗き込んだ。
しかしそこには人影はなく、その路地裏の地面の上に何枚かの髪が重ねられ、小石で重しをされていた。保安の騎士はその紙の一枚を手にとって驚いた。
その一番上に置かれた紙には次のように書かれていた。
『これ、すなわちステンリン伯爵の非人道の行いを示す物。
麻薬、劇薬を不正に売りさばき、また魔物を奴隷として売りさばいた証拠である。
これを信ずるなら屋敷へ行かれるがよし。
十六夜の銀狼の協力者』
コレを見た保安はその書類を抱え、詰め所へ駆けていったのである。
それを屋根の上から見ていた龍瞳を魅月尾は互いに顔を見合わせて微笑み合った。
「この事が切っ掛けで、今日ステンリンの屋敷へハウラント領主が自ら赴いたそうだ。
他の領主や国との合同で捜査が進んでるらしい、奴隷になってた魔物達、まだ捕まっていた魔物達も近々開放されるだろう。
本当に、何から何まで…」
「そう、よかったわ。これでこそ私も行った甲斐があったってところね」
魅月尾はフフフと笑った。
「にしても、まさかあんたがな…」
龍瞳は意外そうに言った。龍瞳と幟狼が思い出すのは、夏になる前のあの日、靄の中に沈んだ森の中ですれ違ったあの時。
「あの時は、俺たちの偽物がいるって言うんでな。まぁちょいと懲らしめに行ったんだが…
着いてみれば気ぃ失ってる奴とか、斬られて動けない奴とか…まぁやられてたって事だ。それもあんただろ?」
「ああ。仕事の依頼でな」
「二人がその時擦れ違っただけだとしても、会っていたのは運命かもね」
「運命、かどうかは知らねぇが…俺は偶然ってのを信じない主義でね」
「『全ては人の成す結果…』」
「『変えること可能なれど、変えられること神すら少なし』」
龍瞳は幟狼のその言葉を聞いて驚いた。
「知ってるのか?」
「ああ。まぁな」
「…なんだか僕も運命を信じたくなったよ」
「ふふふふ…」
「ははは…」
「にっひひ…」
三人は自然と笑い、誰から言い出したのか分からないが『飲もう』と言うことになった。
三人は雪景色の見える二階へ上がり、少し温めた酒を丸いガラスの椀に注いだ。障子を開ければその枠の中には白と青の世界が続いていた。
「〜っ、うまいっ」
「ほんとねぇ〜。
あ、そうだ、一応依頼だったから報酬貰わないといけないんだけど…」
魅月尾が思い出していった。
「あ〜、そっか…
じゃあ今度コレより良い酒持ってくるってのは?」
「期待してるわね」
「おう、任せとけ」
幟狼は親指を立てた。
やがてみんな酔いが回ってきて、どこからどういう話になったのか幟狼の仲間の話になった。
「乎弥ちゃんて何歳なの?」
「乎弥か?たしか今年で15になったんだったかな…仲間に入ったのは六年前だから九つの時か…」
「どこで会ったんだ?」
「乎弥と会ったのは俺たちの仕事の帰りだ。
…雨が酷い日でな、土砂が崩れやすくなってたんだろう…土砂崩れに巻き込まれた乎弥と、乎弥の両親を見つけたんだ。
俺たちは乎弥と両親をスラムの病院まで運んだんだ。まぁスラムとは言ってもちゃんとした医者はいるからな。
けど両親は酷い状態でな…手術が終わって危険な状態が続いて、そう、三日四日ぐらい意識が無かった。
目が覚めるや否や虫の息で、二人揃って『娘を頼む』って一言言って…」
「亡くなったのね…」
魅月尾
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