ノースビレッジを発ってから、早くも一月にもなろうとしていてこれまで4つの町を過ぎた。
最初の町で、キャスとフィムは黒ミサに参加し、バフォメットと謁見することが叶った。
幸いにもいい返事をもらうことができたらしく、今のところは滞りなく旅を続けられることができていた。
そしてなんとなくだが、戻ってきたキャスとフィムが前よりも密着しているような雰囲気をトーマ達は感じ取っていた。
それから3つの町を過ぎ、今彼らがいるのは木々が多く茂る山の中だ。
アーキ山とよばれるこの山は標高は800メートルをなだらかな傾斜で上って行くので、そう苦労は感じない。だが今向かっている方角に長く連なっていて、登って下るだけとはいかない。
さらに心配なのは雨天だということ。厚い雨雲が覆い、いつ降り出してもおかしくない。今は辛うじて止んでいるものの、夜中の内も降っていたため足元は悪い。
その足元の悪さが案の定災いを為して、予定していたペースより遅れが目立ってきていた。
「今日中に山を抜けられればいいけど…」
空を仰ぎながらミラは零した。
外套を纏っているため、ずぶ濡れになることはないが当然こんな山の中で雨に会うのは好ましいことではない。
足元はもっと悪くなり、場合によっては視界も奪われるため、大変危険な状態に陥りかねないためだ。
「ああ…そろそろ半分くらいか」
「そうだな。ただこのペースだと今日中に山を越えるのは無理だ」
トレアは地図を見ながら答えた。
「フィア、大丈夫か?」
「うん、全然平気」
トーマは後ろのフィアに気を配った。だが、その言葉通り余裕そうだ。
旅が始まってから、パーティーのみんなはフィアに対して気を配って接していた。まだ旅に慣れていないのもそうだが、1カ月の眠りから覚めたばかりであるためにそもそもの体力が減っていたからだ。
トレアもその事には異論はない、むしろ彼女自身もフィアをサポートすることには注力していると言ってもよかった。
ただ、トーマが誰よりもフィアに意識を向けていることが彼女には気に食わなかった。別に悪い事とは言わない、ただ、その様子を見ていると落ち着かないのだ。
「トレア」
ミラが唐突に彼女の名前を呼ぶ。
「なんだ、ミラ」
「顔に出てるわよ♪」
「へ!?」
トレアはバッと顔に手を当てた。
「どうした、トレア」
素っ頓狂な声を挙げたために、トーマとフィアが彼女に注視した。
「い、いや、なんでもない、ほんとにっ」
「…そうか?」
「ちょっとみなさぁん、急がないと夜になっちゃうよぉ?」
「あ、悪い、ノルヴィ…行こう」
先を行くノルヴィとフィムたちにトーマは早足で寄った。ミラとトレアもその後を追う、もちろんフィアも。ただ、彼女はトレアに視線を向けたままだった。
やがてポツリポツリと雨が降り始めた。
「あかん、降ってきおった…」
「急ぎましょう」
トーマ達は外套のフードを被って先を急いだ。
それからもう1分もしない間に雨脚は勢いを増し、10メートル程先も霞んで見えないほどの土砂降りになった。
7人は小走りになって山道を進んだ。
「みんな、足元には注意してっ」
「ああ」
やがて日も落ちてきたため、辺りの様子は一層見づらくなった。
だから気付かなかった、道を外れてしまった事に。
「………」
最初に異変に気付いたのはミラだった。
(なにかしら…この違和感…)
「ミラ、どうかしたのか?」
浮かない顔をしていたミラにトーマが声をかけた。それをきっかけにみんなの足が止まる。
「あ、大したことじゃないんだけど…なんだか違和感があるのよ…」
「違和感?」
「どういうこっちゃ…」
ミラも違和感の正体に気付いていないので、どう説明していいのか分からない。
「…そうね…なんて言えばいいのかしら…」
ミラが言葉を探していると、トレアは雨が落ちてくる空を覗いて言った。
「一まず先に進まないか?雨も強くなってきているし、足元も舗装されていないようだし…」
「…そうだな、とにかくどこか落ち着けそうな場所にでも…」
途端、キャスが「あ…」と声を挙げた。
「どないしたんや?」
「この山の道って、キャラバンが往来するから道って舗装されてるはずじゃなかったの?」
その一言で全員が「あ…」と気付いた。別にアスファルトがあるわけでも石畳になっているわけでもないが、さっきまでの道は今いる場所ほどぬかるみは酷くなかった。
「じゃあ、俺たちは道を外れてきてたってことか?」
「みたいだね」
「どうするの?戻る?」
フィアは後ろを振り向きながら言った。
「今からやと確実に日ぃ暮れるで」
「フィムの言う通りだよ、このまま進んで、今日はどこか雨を凌げそうなところを探そう」
そうして彼らは不安を思いつつも、歩を進めるしかなかっ
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