0-1 黒ミサの夜

 ノースビレッジを発って3日目。トーマ達はそのまま南東の方角へ下り、次の町へたどり着こうとしていた。
 辺りは相変わらず草原と林が広がり、緩やかな勾配が続いていた。
 いつもより小刻みに休憩をはさんでいるとはいえ、フィアは野宿や歩きによる長距離の移動にも根を上げることなく付いて来ていた。
 勾配の先、小高い崖の上に来ると、眼下には町が広がっていた。
「やっと見えたな」
 トーマが町を見下ろしながら一息つく。
「ええ。フィア、大丈夫?」
「うん、平気」
 一行は再び歩を進め、道なりに崖を下り町に入った。
「うわ…魔物の人たちがたくさん…」
 フィアは初めて見る多くの魔物たちに少々困惑気味だ。とはいっても、サキュバスやワーキャットなど、人里に馴染んでいる種族がほとんどで、種族として種類が当別多いわけでもない。
「そうね。アルシュフォード領内でも、この辺りは中の方だから」
 ストリートを進み、宿を探しているその最中もフィアは擦れ違う魔物たちをつい目で追っていた。

 そうしている内に宿が見つかり、一行はチェックインすると一まず同じ部屋に集まった。
「今日と明日はここで体を休めて、明後日の午前中に出発しよう。みんな、それでかまわないか?」
 トレアがそう言うと、キャスがそっと手を挙げた。
「キャス、どうした?」
「急で悪いんだけど、今日と明日僕とお兄ちゃん別行動を取るよ」
「おや、お2人とも何か用事でもあんの?」
「うん。今晩都合のいいことに黒ミサがあるんだ。ちょっと行ってこようと思って」
「ああ、そういうこと」
「なるほど」
 ミラとノルヴィだけが納得し、残りの3人はその意味を得られずにいた。
「あ〜…約3名ほど意味が解ってないっぽいけど、まあそういうことだから」
「ほな、そゆことで♪」
 と言ってキャスとフィムの2人は部屋を出て行った。

 トーマはミラに訊ねた。
「なぁ、黒ミサって言うのは…?」
「えっと…そうねぇ…定期的に開かれる…そう、集会みたいなものね」
 ミラは奥歯に物が挟まったような口調でそう言ったのだが、その理由は言わずもがな。乱交パーティーチックな物なのだからしょうがない。
「集会ね…でも、どうして都合がいいの?」
 そう言いつつ、フィアはベッドに腰を掛けた。
「バフォメット様がいらっしゃるのよ」
「ああ、そう言うことか」
 トレアはここでようやく合点が言ったようだ。
「バフォメット様?…って誰?」
 フィアが訊ねると、ノルヴィが解説を始める。
「まぁ簡単に言えばバフォメットってなぁ、あのちびっ子たちの親玉みたいなもんさ。
 バフォメットってのは種族名で、本当はそれぞれ名前があるらしいんだが彼女たち自身があまりそれを表に出さないらしい」
「バフォメット様は魔物の中でも上位で、ドラゴンやエキドナと並んで強い魔力を持つわ。もしこれから起こる戦争に手を貸してもらえるならこれほど心強いことはないわ」
 トーマとフィアはその話を聞いて、どのような人物なのだろうと想像していた。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 その街から遠く離れた、多くの人が場所を知らぬ泉の畔にキャスとフィムはいた。キャスの魔術で転送されてきたのだ。
「暗ッ…」
 フィムの第一声。
 辺りは真っ暗で、薄く光が届くほどしかない。辺りは歪な形の木々が並ぶ森で、しんと凪いだ丸い泉が目の前にあった。
「なんや…まるで夜みたいやなぁ…」
「ここは常夜の森っていうんだ。だから、みたいじゃなくて夜なんだよ」
 キャスはそう言いつつ杖を出現させる。
 フィムは不思議そうな顔で彼女に訊ねた。
「常夜て…要はずっと夜ゆうことやろ?魔法か何かか?」
「ううん。この森は、周りを岩に囲まれてるんだ。それもぐるっと360度。だからむしろ薄明るい方が魔法だよ、木々自体がかすかに魔力で光ってるんだ」
 彼女はそう言うと、泉に近づき呪文を唱える。

「エルアグア コモラヴェリハ チェラダ・アキエスエル ラパルエダ・アグランダ ラマネラ…」

 呪文に呼応するように泉は青白く光り、蒸発でもしてしまっているかのように水が徐々に無くなり始めた。
 泉は透き通っていて、泉の底も見ることができていた。だが、先程までは底にはなかったアーチが水が消えるとともに姿を見せた。
「キャス…これは…?」
「ミサの会場の入り口。さっき唱えたのは特別な呪文なんだ」
 キャスは足元から続く階段を下りていく。それに付いてフィムも階段を下り、アーチをくぐった。

 アーチをくぐると景色は一変した。大きく広い屋敷のエントランスのような空間が広がり、魔女たちと彼女たちの『おにいちゃん』となった男性たちがいた。
 すると、魔女の1人が2人に気付き声をかけてきた。
「あら…ずいぶん色気のない格好ね?どうしたっていう
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33