(君の兄は見殺しにされたんだ。負傷した彼は、区画ごと切り離された、トーマフェンデルという准尉によってね…)
フィアの脳裏にその言葉が甦る。
バナードの死から数日後、家にやってきた男がそう告げた。
そして彼はこうも言った。
トーマ・フェンデルという男はバナードの親友であったが、自分の身を守るためバナードを見殺した。
もし、君がすべてを投げ出してまでも兄の無念を晴らしたいというなら、我々が協力しよう、と。
ここ最近まで、その男の言葉を信じていた。だが、今その言葉が揺らぎ始めている。
夕日が差す河原で、フィアはトーマを待っている。
真実が知りたいがため、あの言葉が本当であると確かめたいがため。
自分が恨む男の仲間は自分を助けてくれた。それには感謝している、が、それとこれとは別の話。
村の方から人が1人歩いてくる。藍色の服を着た、その男。
彼はフィアと10メートルほどの距離を開けて立ち止まった。
「ちゃんと1人で来たのね」
「ああ」
トーマは腰の後ろのホルスターからハンドガンを抜き、フィアの前に投げ、ナイフも投げ捨てる。
「何のつもり?」
「バナードの復讐、だろ。ただその前に俺の口から直接話を聞きたい、だから俺を呼び出した」
彼女は目の前のハンドガンを手に取り、銃口をトーマに向ける。
「わかってるじゃない…」
両手で持ち、肩の力は抜いて、狙いは心臓や頭などの局所ではなく、胴体に合わせる。
トーマは自然に立ったまま、フィアは銃を構えたまま、2人は会話を続けた。
「いい構えだな、銃を撃ったことは?」
「私、反政府に就いたの。そこで訓練を受けたわ」
「俺に復讐するために」
「そうよ」
トーマは懐かしむように薄ら笑みを浮かべた。
「あいつは銃の腕はからっきしだったな。あいつに誘われたのがきっかけで、一緒に練習したりもしたけど、一向にうまくならなかったよ」
「でも、私はそうはいかないわよ。確かにまだ経験は浅いけど、この距離なら外さない」
フィアは眼光鋭く、その言葉は決してハッタリではないことは一目瞭然だった。
「そろそろ話してくれない?」
彼女の言葉がトーマの意識を懐かしい記憶から呼び戻す。
「わかった…」
トーマはまっすぐフィアの目をまっすぐ見つめた。
「俺はあいつを、確かに救えなかった。それは本当だ…」
フィアの銃を握る手に力が籠った。
「それは、認めるのね」
「ああ、それが事実だからな。ただ、俺は見殺したわけじゃない。『みんなの命を守れ』それがバナードが俺に言った言葉だ。
バナードを助けに向かって、まだ軽傷だったあいつを連れて逃げようとしたとき、爆発が起こった。俺は軽傷で済んだが、あいつは瓦礫に挟まれ、破片が腹に突き刺さっていると言った。
それでも助けようとした俺に、新型動力は出力を上げ、G8は崩壊するまで時間がない、このまま区画ごと切り離せと…あいつは俺に言った」
「だから、それに従ったっていうの?」
「そうだ」
フィアは下唇を噛んだ。
「…親友だったんでしょ?なのに…なのに、そんなにすぐ割り切れるっていうの!?」
「そうしなければみんな死んでしまう状況だった…」
「だからって…それでも助けようとは思わなかったのっ!?」
「あいつはッ!」
「っ…!」
声を唐突に荒げたトーマにフィアは一瞬気押された。
「あいつは…賢い奴だ…あいつが時間がないと言えば、それは本当に切羽爪った状況だってことだ…。
それにあいつは、もう覚悟を決めてたんだ…」
「なんでそんなこと分かるのよ…?」
「あいつのあんな顔見せられれば、誰だってわかるさ…」
次の瞬間、フィアはトーマの足元に向かって引き金を引いた。
足元の石が砕け散り、破片がトーマの足やブーツに当たり、残響は静かに消えていった。
「嘘ッ!」
「本当だ…」
「違うわッ!」
「違わない…」
すると彼女の様子が変わった。
雰囲気が静かになり、銃を持った腕は重力のなすがまま垂れ下がった。
「絶対嘘よッ…
いいえ…たとえ本当でも認めるわけにはいかないの…!」
フィアの一言にトーマは当然な疑問を抱いた。
「…どういうことだ?」
フィアは哀しげな表情で答えた。
「…私は、あなたに復讐するために全部捨てたの。家も、生活も、思い出だってっ!全部!」
トーマは驚いた半面、どこかでそんな予感も感じていた。
「…君の、バナードの母親は…?」
フィアは辛そうな顔を浮かべた。
「1年前に流行った病で死んだわ…心労が祟ったのもあるかもしれないけど。
私には、もう家族なんていない…帰る家もない…何も、何も残ってない。唯一残ってるは、兄さんの無念を晴らしたい思いだけよッ…だからッ!」
彼女は下ろしていた銃口を再びトーマに向けた。
「私はそんなの
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