村の広場、噴水の縁に腰掛けて、彼は語りだした。
「俺は、元いた世界でテロに遭って両親を亡くした。それがきっかけで、俺は軍校に入ることを決めたんだ」
彼が話し出すと、トレアは隣に座った。
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高校卒業と一緒に施設を出て、軍校に入った。
士官学校とは少し違うが、だいたい似たようなもんだ。
そこで俺はあいつと出会った。
バナード・ベルボア。あの子、フィアの兄で、俺の親友だった。
手先の器用な奴で、軍校では新入生は戦闘と整備の基礎を習うが、めっぽう機械いじりの方が得意だった。
会った時から、バナードは軍の整備士になって最高の機体を仕上げるのが夢だと、そう語っていた。
話を聞けば、バナードの父は技術屋で軍に所属していたらしい。小さいころ、何度か職場に連れて行ってもらったそうだ。
そして、あいつはその父を見て整備士を目指すようになった。
俺はといえば、そんな大層な夢はなかった。今考えれば、俺を突き動かしていたのは親を殺された復讐心だったのかもしれない。
あいつは戦闘訓練でこそ成績は並より少し下あたりだったが、整備訓練ではいつも優秀だった。
それに比べて俺は戦闘訓練も整備訓練も並み以下。
当然、そうすれば劣等感や、自分への憤りでいっぱいになってくる。俺は半ば自暴自棄になりかけていた。
そんな時、声をかけてくれたのがバナードだ。
「俺、今から射撃の自主トレ行くんだけどよ、よかったら付き合ってくんねぇか?」
俺は断ったんだが、半ば無理矢理に連れ出された。
今思えば、あいつは自主トレなんてする必要はなかったんだ。だから、俺を見かねてだったじゃないかと思う。
しょうがなく付き合ってみたものの、結果は2人とも無残なもんだ。一発あたってりゃいい方だった。
「あ〜あ…」
「…だめだな。これじゃ明日も自主トレだな」
幸か不幸か、その一言が余計だった。
「お、明日も付き合ってくれんのか!?」
「ん?あ…いや―」
「そーかそーか、いやぁ、一緒にやってくれると助かるよぉ」
「…おい、待て。今のは言葉の綾で…」
「んじゃ、明日もここに授業終わりな。じゃ」
次の日から、暇さえあれば2人でトレーニングだ。ランニング、筋トレ、射撃、格闘術…
最初は続けたところで、と思っていた。
ところがやっぱり効果はあるようで、戦闘訓練で俺とバナードの成績は上がっていった。ただ、あいつは射撃の腕だけは論外だ。
「ちっきしょー、なんで当たらねーんだよ!?」
「いや、ちゃんと上達してるだろ?」
「どこがだッ!? ただ一発当たるか当たらねーかだったのが、二発当たるか当たらねーかになっただけじゃねぇかッ!」
やがて1年が経って、専科に分かれた。俺はもちろん軍兵、バナードは整備士。
それでも俺たちは、たまに顔を合わせて、休暇は遊びに行ったりもした。いつしか、唯一無二の親友になっていた。
俺は軍校を卒業して、正式に上等兵として軍に入った。
その頃あるテロ集団、いや反政府組織が活動を強めていた。だから即実戦だ。
俺は幾つもの任務をこなし、幾度もの戦場をくぐった。俺は入隊から1年半でどういうわけか、上等兵から伍長に特進してたよ。
バナードも持ち前の器用さ、手際の良さもあって、整備士としても一目置かれるようになっていた。
あいつが整備した機体は、スペックが違うように感じるほど、いい仕上がりになってた。
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トーマは懐かしむように話した。その表情は、薄ら微笑みを浮かべ、楽しそうにも思えた。
「俺は、そうなってからも時折、整備ドックに顔を出してた。あいつは『こんなところに遊びに来る伍長はお前だけだ』って言ってたよ。
ただそう言いながらも、お互い一緒にいると気が楽だった…本当に」
「本当の親友、だったんだな…」
トレアは、トーマのことを少し知れたことが嬉しくて、つい微笑んでいた。
「ああ、でも…」
彼はその顔と口調に暗い影を落とした。トレアも思わず哀しげな表情に変わる。
「あれは大きな任務を成功させて、功績を認められて准尉に特進した…その後のことだ…」
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2年前―
環太平洋連合 ファーストコロニー群第2防衛拠点『フォート・ツー』
5つのコロニーから成るファーストコロニー群。
その防衛拠点の内の一つであるフォート・ツー内の第4ドックのドアを開けて、軍の制服を着た若い男が入ってきた。
茶色のショートシャギー、少し鋭い目をした整った顔立ちの彼は、両手にカップを持っている。
半無重力状態であるために、彼は空中をふわりと飛ぶように移動し、一機の宇宙艇の傍に向かった。
「よう、トーマ。なん
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