その日、キャスとフィムの乗る教会騎士団の新型陸上艦はユーゼンリオンに到着しようとしていた。
牢屋で2人が出会ってから4日も経っているのだが、時間を知ることのできない2人はそれを知らなかった。
「アメンボ」
「ボート」
「と、と…峠」
「げ…幻覚」
キャスとフィムはもう何度目かのしりとりで暇を潰していた。
「はぁ…」
とキャスはため息を吐いた。
「今この船どのあたりなんだろう…」
「さぁな。けど、もうそろそろ着くかもしれんな」
「そう。じゃあもう僕たち年貢の納め時だね」
「ははは、かもしれんな」
そして2人は大きく溜め息を付いた。ただ、その溜め息の意味は2人で大きく異なっていたことを、キャスは後に知ることとなる。
大の字で寝そべるキャスは、隣で手を頭の後ろで組んで寝そべるフィムに横目で視線を向けた。
「…もうお別れになるかもしれないから聞くけど…」
と、あまり嬉しくない切り出しでキャスは続けた。
「この前ボソッて言ってた『レム』って…だれ?」
「あ?」
フィムは思ってもみなかった言葉に少々マヌケな声をあげた。
それは、2人が出会ったときにフィムがキャスの顔を見ようと帽子を取り上げ、彼女の顔を見たときにとても小さな声で呟いた言葉だった。
「…なんで今訊くねん…」
「いや、別に。暇すぎて思い出しただけだよ」
「・・・・・」
フィムは黙って、跳ね起こしていた状態を元に戻し、再び天井を見た。
「…それ、言わなあかんか?」
「なにさ…言えないこと?」
「いや…そないな訳でもないけどな…」
「じゃあいいじゃん。どうせ2人とも終わりなんだから…」
キャスはこの4日間、ここから逃げ出す方法を考えていた。だが残念なことに良い案は全くもって浮かんでいなかった。それはフィムも一緒であることは明確だった故の言葉だ。
「…しゃーない。話したるわ…」
キャスはこの時、その名前は恋人か誰かのものだろうと考えていた。確かに、その考えは決して的を射ていなかったわけではない。そう、決して。
「レムは、俺の昔の友達や。自分と同じ金髪で、可愛らしい顔しとった。性根の優しい、一本筋の通った女やった。今思えば、俺の初恋の相手やったかもしれん…」
ほら見ろ、とキャスは思った。
「…それで?なんでいきなり呟いたわけ?」
「よう似とんねん、自分と」
その一言を聞いて、フィムがあの時驚いたのは自分が女だったからではなく、自分がそのレムに似ていたからかとキャスは思った。
(それで、思わず口走っちゃったわけね…)
「ふ〜ん…で、告白したの?」
「…残念ながらしてへん…」
「な〜んだ…」
キャスが意気地のないやつだと思って笑みを浮かべたとたん、フィムは続きの言葉を述べた。
「その前に死んでもたからな…」
「えっ?」
キャスは素っ頓狂な声を挙げてしまった。
「えっ…ほんとに…?」
「…ホンマや…」
フィムはそう言いながら上体を起こし、胡坐をかいて座った。キャスも体を起こして座った。
「…病気やった…ただ、俺はそんときその事を知らんかった。あいつ自身も、どうやらみんなには黙ってたらしい」
と彼は遠くを見る目で話した。
「…治せなかったの…?」
「ああ、手術したら治らんこともなかったらしい。けどな、俺らは下級層の育ちやったから、どこにもそんな出してやれる金もなかった。それをレムの両親もわかっとったんやろうな…誰にも相談してへんかった…」
「だから…お金が欲しくて泥棒に?」
「…もちろん自分のためやない、孤児院とか下級層のみんなのためにや…けど…ただ義賊ぶって、自己満足してるだけかもしれへんな…」
フィムのその顔に、キャスはときめきを覚えた。今初めて感じたものではないが、それを自ら『ときめき』と意識したのは初めてだった。
(なにさ…僕ってもしかして…フィムのことが、好きなの…!?)
彼女は、一向に治まらない胸の心拍が苦しく、服の胸の部分を握りしめた。
「…そんなこと…ないよ」
「ん?」
「…きっと、救われてる人はいるよ…だから…」
キャスの言葉を聞いて、フィムは微笑みながら彼女の頭に手を伸ばした。
「…おおきにな」
彼の大きく暖かな手が、帽子越しにキャスの頭を優しく撫でた。嬉しいような恥ずかしいような、そんなくすぐったい感情が彼女の胸に満ちていた。
と、その時、部屋のドアが静かな機械音を立てて開いた。
「フィム・ロックブルック。出ろ」
入ってきた3人の騎士の内の1人が言った。
「…なんや、もう着いとったんか…」
そう言うとフィムはキャスの帽子を掴んだまま手を離し、柵の近くに置いた。
「まだだ、だが貴様は到着後、すぐに連行し処刑する手筈となっている。それに滞りの無いよう準備だ」
フィムはゆっくりと立ち上がった。
「…さよか…ご苦労なこっちゃ
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
8]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録