体が跳ね上げられた衝撃で彼女は目が覚めた。
「んっ…」
ずっと同じ体勢だったからなのか、首回りと右半身に怠さとかすかな痺れを感じながらキャスは上体を起こした。手は枷をはめられていて、杖を召喚しようと試みたが妨害されてしまった。
〔…魔力収集を阻害されてる。枷に結界を掛けられてるのか…〕
彼女は当然と言えば当然だと納得し、首を回してから壁に寄りかかるようにして立ち上がった。
馬の蹄と金属の擦れて軋むような音、それに揺れを感じることから馬車に乗せられているのだとすぐに分かった。今入れられているところは一畳分の広さで、両側に覗き窓があり光が差し込んでいた。
彼女が覗き窓から外を見ると、外は遠くにルプス山脈と手前に森を望む草原を走っていることがわかる。恐らく、大陸の南西の方に下ってきたのだろう。
唐突に馬車が大きな何かの作った影の中に入った。キャスが〔なんの影だろう…〕と思っていると、馬車は急に右へ針路を変えた。
「うわっ―!」
左側の窓を右側の窓を覗きこんでいた彼女は遠心力で反対側の壁に強く打ち付けられた。
「いぃ〜たぁ〜ぃ…」
後頭部をぶつけて、その痛さにしばらく涙目でうずくまっていたが、気を取り直し頭の上の覗き窓から馬車の左側の様子を窺った。
目の前に赤褐色の色をした、表面に光沢のある壁のようなものが姿を現した。
〔下の方が光ってる…?〕
壁の下の方は鋼のような銀色の金属とみられるもので装飾が施されていた。そして地表から1メートルほど浮いているように見え、その壁の下部の裏側から青白い光が溢れていた。
見上げてみると、高さは優に100メートルはあろうかと言う巨大なもので、上にも装飾が施されていた。見る限り、その壁は緩やかに湾曲しているようであり、まだ馬車の向かう方向に何百メートルと続いているようだった。
〔なんだろう、この壁…城の城壁?…それにこの光は一体…って、あれ?…もしかして〕
キャスはあることに気付いた。装飾は、いや、正確にはその壁は馬車の後方に向かって流れていた。別にそれはどういうことではない、馬車は進んでいるのだから壁が後方に流れていくのは当然なのだが、明らかにその速度がおかしいのだ。壁は人が小走りする程度の速さで後ろに流れていく、だが、草原の草はまるで川が流れるように後ろに過ぎ去って行っていて、明確にその速度に違いがあった。草はまず動くことはない、と擦るならばだ。
〔まさか、壁が動いてる…!?〕
そう、その光景からは、壁が馬車のスピードより少し遅いくらいの速度で動いているとしか思えなかった。
徐々にその壁は速度を落とし、馬車もそれに合わせて速度を落としていった。壁が完全に静止すると、馬車はその壁に向かって方向を転換し、次の瞬間にはウィィィン…ガガン…という機械音が聞こえてきた。
馬車がまた動きだし、少しして始めに段差の付いた傾斜を上っていくのがわかった。覗き窓で外の様子を窺っていると、壁の中に入ったようだった。壁の中には明かりがあり、鉄の無機質な内壁が見えた。
カツンカツン…と人の足音らしきものが近づいてくると、馬車の閉ざされていた扉が開かれた。
「降りろ」
白い鎧を着た騎士が2人いて、1人がキャスに命令した。
彼女は大人しくそれに従い馬車を降りた。すると後から馬車が一台入ってきて、中から一戦交えたあの騎士たちが降りてきた。
それに気を取られていたキャスは、後ろで枷につながれた紐を握った騎士に尻を蹴られた。
「とっとと歩けっ」
騎士に前後を挟まれ、そのままどこかへ連行されていく。
壁や床は全て金属で作られていて、灯りは等間隔に設けられている。灯りと言えば一般的にはオイルランプなどだが、ここの灯りは全てこの世界ではどちらかと言えば少ない電灯だ。
歩いているときに突然声が至る所から聞こえた。
『ウルベルド小隊が帰還した。負傷者がいる模様、医療班は速やかに治療を行え。繰り返す…』
キャスは歩きながら辺りをきょろきょろ見回した。どうやら声は壁の上の方に付いた網の張った穴から聞こえてくる。
〔魔法じゃない…どういう仕組みなんだ…?〕
魔力はこの建物内からは人間のもの以外全く感じず、魔法を使ったときに起こる魔力の変異も認められない。キャスには不可解極まりなかった。いや、実際この人工物全てが彼女にとって不可解だったのだが。
階段を上り、1つの部屋の前に連れてこられた。扉が機械音を立て自動で開き、薄暗い部屋の中に檻があり、その一つにキャスは放り込まれた。
「うわっ!」
乱暴に放り込まれて、キャスは転んで声を挙げた。
「大人しくしていろ。魔法さえ使えなければ、貴様などただの子供だ。おかしな真似はせんことだな」
騎士はそう言うと部屋から出て行った。
手枷で魔法も両手も扱えないが、
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