キャスが一行に加わって3日目。彼らは森の近くの街道を進んでいた。
そしてこの話は、いきなり戦闘シーンから幕を開ける。
「えぇいっ!」
トレアの鬱陶しいという意思を反映した声が挙がる。
5人は盗賊の奇襲にあっていた。森の中からは矢が無数に放たれ、ナイフや剣を持った男たちが白兵戦へと持ち込んでくる。
いつもなら何のことはないのだが、矢が飛んでくるこの状況で、彼らが不利であることは必至だった。
5人は木の陰に隠れて矢を凌いでいた。
「くそっ、奴らはどこから狙っている!?」
「キャス、分からないの?」
「丸わかりだよ。でもここから400メートルも向こうの森の中で、魔導具で肉体強化して狙ってるんだ。ミラでも狙えないよ」
「魔法で一掃とかできないわけぇ?!」
荷車を盾にしているノルヴィが覗きこもうとした瞬間、目の前に矢が突き刺さった。それを見て彼はキャスに怒鳴った。
「無理だね。あんなところに効果を出せる魔法は、最低でも20秒は詠唱して魔力を集めなきゃ無理だよ。そうすると、魔法陣の魔力の集結発光で気づかれて前衛にタコ殴り、それを援護しようとすれば君たちは矢の餌食さ」
「よく考えてるやつらってことか…」
トーマは木の陰から覗きこみながら言った。そしてウェポンケースを下ろすと、蓋をあけて中からサブマシンガンとサイレンサーを取り出した。コッキングしてからグリップの上にある4段階のダイヤルを一番上に親指で回して合わせると、姿勢を低くして後方に退いて物陰に隠れた。
「トーマ、何を?」
ミラは訊ねた。
「前衛がかなり近づいてる。弾数に限りがあるからあんまり使いたくはないが背に腹は代えられないからな…キャス、詳しい位置と数分かるか?ここから狙撃する」
トーマはそう言うと、左手を銃身に添えてスコープを覗いた。
「後衛でいいよね?トーマから12時の方向に1人、そこから約2メートル間隔で5人だよ」
少し赤く色の付いたスコープのレンズの向こうに、弓を構える男が見えた。
「見つけた…全く、本当に木々の隙間から狙ってるな」
そう言うとトーマは引き金を引いた。小さい音で放たれた弾丸は緩い放物線を描きながら男の持つ弓を破壊し、肩を霞めて木に埋もれた。
「なんだ今のはっ!?」
当然盗賊たちは混乱した。そしてまた1人、また1人と武器を破壊され、身を削られて行った。
「後衛はやった、あとは目の前の奴らだけだ」
「そのようだな…」
「ええ、借りは返す主義よ…」
トーマ、トレア、ミラが物陰から現れ、武器を構えた。
「がぁっ!」
「うぎゃぁ!」
「ひぃいっ!」
「あがっ!」
「うぐっ!」
カチンという金属音を立ててトレアが剣を納めた。
「ふん、この程度の者たちに足止めを食らうとは…腹立たしいな…」
「こいつらはどうする?」
「ここに放置しておけばお嫁さんが見つかるわよ。さ、行きましょ」
一行はその場を後にした。
そのすぐ後、デビルバグやスライムたちが彼らを見つけたのは言うまでもない。
周りは依然として森が続いており、前方には高くそびえるスプル山脈が見えていた。
「キャス、さっきは助かったよ」
「いいよ、特に何もしてないから」
トレアの前方でトーマとキャスが会話を始めた。最初は先の戦闘でのことだったのだが、「ところで」というキャスの一言から話の内容はその話を盗み聞くトレアにはチンプンカンプンな内容に発展していった。
「さっきの武器って、銃だよね?こっちの世界じゃもっと原始的なのだから、つまらなくて。どういう仕組み?」
「ああ、これはまず弾薬に工夫があって薬莢と雷管が…」
「なるほど、それなら効率がいいね。でも飛距離は…」
「バレルの両側に電極が…」
「ああ、電位差を利用して…」
それはおそらく別世界の住人のトーマと天才的な魔女であるキャスの間でしかちゃんと通じ合わない会話だろう。
トレアは少し心の奥にモヤモヤしたものを感じていた。自然と表情は不機嫌な感情を示唆するものになっていったが、本人も前を歩く4人もそのことには気づかない。
トレアとキャスは決して仲が悪いわけではない。初対面でこそ問題もあったが、そのあとちゃんと話し合い、和解した。他愛もない話もするし、ノルヴィがドジをすれば、2人で皮肉を飛ばしておっさんを苛める仲でもあった。
問題なのはトーマとの仲だ。覚えているだろうか、トーマとトレアはキャスの小屋を後にしたところで言い合ってしまった。それからかなり経つが、トレアはなんとなく謝るタイミングを逃してしまっているのだ。
「・・・・・」
トレアは黙ってトーマを見つめては情けなく目を逸らし、また見つめるという行動を繰り返していた。
そんなことも露知らず、トーマとキャスは専門的な話に花を咲かせていた。
「それでどうだ?研究はう
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