3-1 町はずれの小屋

 橋の崩落によって大きくルートを迂回するというハプニングもあったが、その日一行は無事ボナルフに到着した。
「ようやく着いたな」
「つっても、もう夕方よぉ。はぁ〜、商売は明日か…」
 ノルヴィはそうぼやきつつ、後ろの荷車に積んだ大量の荷物を横目に見た。
「とりあえず宿を探して体を休めよう」
「そうね」
 一行は近くの町の地図を見て、一番近い宿を探した。
「ここから近いのは…ここね」
 町に入ってメインストリートを少し進んだ横道に宿が一軒あった。一行はそこに入ってチェックインを済ませた。
「3泊で5万8千リーゼだね。ウチは悪いけど飯は作ってないんだ。近くに酒場があるから、そこで食事は摂っとくれ。荷物は脇の倉庫で預かっとくから」
 カウンターの小太りのおばさんは料金を受け取ってそう言った。
「ああ、頼むわ」
「手荷物を置いて酒場に集まりましょ」
「ああ」
 鍵を受け取り、4人は部屋に向かった。トーマはウェポンケースを置き、ノルヴィと一緒に部屋を出た。
「あ、あんたたち。酒場はウチを出て右へ向かった角だよ」
「おう、サンキュー」
 店主に道を教えてもらい、宿を出て右へ曲がった。その先に酒場の看板が出ているので、すぐに場所は分かったのだが。
「おうっ、この野郎っ!」
 店に入るなりいきなり罵声が飛んできた。
「いや、お客さん、落ち着いて…」
「これが落ち着いていられるかってんだッ!」
 中のカウンターで、体格のいい男が店の主人らしき男性に怒鳴りかかっていた。
「ちゃんと数えろッ!金は確かにここに置いてんだろうがッ!」
「いや、ですからね、1000リーゼ足らないんですって」
 どうやら勘定が合わないようだ。男も酒を飲んで酔っているらしく、かなりいきり立っていた。
「っざけんなッ!俺はちゃんと数えてそこに置いたんだ!」
「でもないものはないんです!」
 周りの客や従業員も不快そうにして、女性に至っては当然ながら怯えている。
「ったく…これじゃ飯も食えないなぁ…。おい、あんた、ほんとに置いたのか?」
「あん?んだてめぇ?俺はちゃんと置いたってんだッ!な、店主てめぇ、まさか俺を担ごうってんじゃねぇだろうなっ!?」
 客はとうとう理不尽な難癖までつけ始めた。
「めっそうもない!」
「とか言って、担ごうとしてんのはあんたじゃねぇの?」
 ノルヴィは呆れながら呟いた。
「っだとコラァッ!」
 男はノルヴィに殴りかかったが、ノルヴィは咄嗟に受け流した。
「おぉっ!…っと、暴力反対、俺って平和主義者よぉ?」
 ノルヴィは両手の平を客に向け、苦笑いしながら言った。
「なにが平和主義者だ!…てめぇら、あんまり嘗めてっと…」
 客の感じがとうとう危なっかしくなってきたとき、トーマは足元を見て言った。
「…あんた、そこ」
「あぁん?」
 客の男も店主もノルヴィもトーマの指差した客の足元を見た。客の靴の下に1000リーゼコインが顔を覗かせていた。
「あ…」
 客の男はそれを拾い、店主に向かった。
「こいつぁ…すまん…」
 男はすごすごとそれを置いて「悪かった!」と店の中にいた全員に言うと帰って行った。
「あんたたち、助かったよ。お礼に一食奢らせてくれ」
「お、マジ♪」
「いいのか?」
 ノルヴィは嬉しそうに言ったが、トーマは悪いので訊き返した。
「ああ、俺は義理と人情を大切にしてんだ」
「連れもあと二人いるんだが…?」
「なぁに、構わねぇって」
「それじゃお言葉に甘えさせてもらうよ」
 そのあとトレアとミラも合流し、店主の厚意で夕食をご馳走になることになった。

 夕飯も取り終え宿に戻ろうと道を歩いていると、「あっ…」とノルヴィが思い出したように声を挙げた。
「どうした、ノルヴィ」
「いやお前、どうした、じゃなくて…さっきの酒場あれだけ人がいたのに魔導師のこと訊かなくて良かったわけ?」
「あ、そう言えばそうだ。トーマ、良かったのか?」
「あぁ、忘れてた…」
「忘れてたってお前…いくら急がないからって、忘れるのはどうかと思うぞ?」
「まぁいいさ、明日また訊きに行けばいいだけの話だ。今夜はもう疲れたしな、帰って寝よう」
 トーマはそう言うとスタスタと歩き始めた。
「…なんだか今一緊張感に欠けるな…」
「うっふふふ…いいんじゃない?それに彼、こっちに来たばかりの時は焦って難しい顔ばかりしてたけど、最近柔らかい表情もするようになったわ。それっていいことじゃない?」
「まぁそうなんだが…」
「私たちも早く寝ましょう」
「ああ、そうだな」
 トレアとミラが歩き出した時、ノルヴィは後ろを振り返った。その先には暗い建物の間の通路があったが、変わったことはなかった。
「どうしたの、ノルヴィ。早く行くわよ?」
「…ああ、ごめんごめん」
 そう言うとノルヴィも後を追った。


 翌朝、
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