トーマがこの世界に来てから一週間が経とうとしていた。
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」
トーマはそう言う男性から絹袋に入った金を受け取った。
彼がいるのは彼にとっては2つ目の町、ステンライナのギルドカウンターだ。トーマは今しがた依頼を終えてきたところなのである。
この町に着いたのは3日前のことだ。そしてトーマはトレアやミラと協力しつつ2つの依頼をこなしていた。そして先ほど終わらせた依頼で3つ目になる。
依頼内容はワーウルフのいる森での薬草の獲得から、他任務で人手の少ない治安と協力して、資材を横流しする裏組織の検挙など。
受け取った金を懐に収め、トーマは宿へと帰り着いた。
止まっていた部屋に入ると、そこにはトレアとミラのほかに一人、紳士風な髭を生やした丸い顔の小太りの男いた。
「お、帰ったか」
「ああ。彼は?」
「おや、あなたがお二人のお連れの方ですか。申し遅れました、私、この町で輸送業を営んでいますトーマス・ハンソンと申します。以後、お見知り置きを」
ハンソンは名刺を渡しながらそう名乗った。さて、そんなハンソンがなぜこんなところにいるのか。見れば、彼の身なりは生地のいいスーツと磨かれた靴、ステッキも所持している。それに「わたくし」という言葉使いからも察せられる通り、どこから見てもちょっとした金持ちだということは想像がつく。そんな彼が、庶民的な宿の一室にいることは誰が見ても不自然だった。
「はぁ…それで、そういうあなたがどうしてここに?」
「はい、実はちょっとおかしなことがありましてねぇ…その事をうっかり口に出してしまったところ、ノルヴィさん…でしたか?彼が『身内に腕のいい三人がいるから、相談でも』と言ってくれたものですから、お言葉に甘えさせて頂いた次第でして」
「それで、『おかしな事』というのは?」
「ああ、いま丁度聞いていたところだ」
「では、改めてお話しいたしましょう」
ハンソンはそう言うと再び椅子に座って事情を話し始めた。
ハンソンによると次の通りだ。
まず最初にそれが起こったのは2か月前のことである。彼の経営する会社の社員だったハーピーが、ある日を境に会社に来なくなったのである。ただその時はちょうどハーピーの発情期とも重なるため、仕事中に仲の良かった男でも連れ込んで巣でよろしくやっているのだろうと思い、誰しもがしばらくすれば会社に戻ると考えていた。
だが彼女は発情期が終わっても戻って来ないどころか、他にも行方を発つものが増えている。それはハンソン氏の会社にとどまらず、噂によれば浮浪者の内からも魔物や人間の女までもが消えているというのだ。
治安に相談を持ちかけたが、治安は今忙しく十分な人手を回せていない。
「話を聞く限りだと、ただの行方不明じゃないっていうのは察しが付くな…」
「ええ、ギルドカウンターに依頼を出していますので、受託していただけるとありがたいのですが…」
「わかりました、どこまでお役にたてるが分かりませんが、私たちも尽力させていただきます」
「それは心強いですな。では、私は下に馬車を待たせておりますので、これで」
「ええ」
「よい結果を期待しておりますぞ」
ハンソン氏はそう言って机に置いてあった帽子を被ると部屋を後にした。
「全く、ノルヴィも厄介な仕事を回してくれる…」
トレアはそう言って少し呆れつつ、空いていた椅子に気だるげに座った。
「この仕事を受けるとなると、予定より滞在が伸びるのは必至だ。そうなれば、トーマの魔導師探しだって…」
「いや、俺の方は心配しなくていい。探している相手は別に逃げはしないだろ」
トーマは机の上に報酬の入った絹袋を置き、じっと見ながら言った。
「まぁそうだが…だが、早く見つけて帰りたいというのが本心だろう?」
トレアは中から一枚の硬貨を取り出し、右手でトスしてはキャッチしている。
「あら、ならトレアはトーマに早く元の世界へ帰ってほしいのかしら?」
ミラはトスされたコインを空中で掴み取り、袋の中へポイッと戻した。トレアは物惜しそうな顔をしていた。
「そういう訳じゃない」
トレアは戻されたコインを再び手に取り、テーブルに頬杖をついてそのコインをじっと見た。
「だが、生まれ育った故郷、元の世界に帰りたいというのは、普通なら誰しもが心に思うことだろう。ただでさえ、トーマと私たちの世界には大きな差異がある上に、待っている家族もいるだろうに」
トレアはトーマに向かってコインをパスした。トーマはコインをキャッチすると、手のひらのコインを見ながらフッと鼻から息を抜いた。
「家族…か。いれば多少なりとも、今より帰りたいという気持ちは大きかったかもしれないな」
トーマの言葉を聞いた二人は、少し驚いた顔をした。
「家族…いなか
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