トーマがこの世界にやってきて3日目の朝。ノルヴィはいつも通りメインストリートへ仕事に出向いた後、トーマはトレア、ミラの二人を連れ添いギルドカウンターに来ていた。
まだ朝ということもあってか、来ている者は少なかった。
3人は受付の横にある掲示板をチェックし、依頼の内容を一通り見た。すると、依頼人の欄に聞いたことのある名前を見つけた。
「これはカウルスからの依頼か?」
「内容は…魔術実験の助手…とあるわね」
「そんなのも依頼できるんだな…報酬は…10万リーゼか」
リーゼはこの町のある国の通貨単位だ。普通、一つの依頼の報酬は並みで2万リーゼから5万リーゼの間が相場、となればこの額はかなり高額だ。
追加情報だが、1リーゼは1円と同価値である。
「相場の2倍以上ね。それだけ危険を伴うということかしら…」
「実験の助手だからな…失敗する可能性もあるということだろう」
「だがこれなら武器も使うこともないだろうし、対魔法防壁…だったか?そのくらいの安全策は期待してもいいんじゃないか?」
ミラもトレアも「それもそうか」と賛同し、この依頼を受けることにした。
「では、こちらが詳しい内容になります」
カウンターで女から1枚の紙を渡された。そこには詳しい内容が載っている。はずだったのだが、書かれていたのは場所と「来た時に話す」ということだけだった。
「…どこが詳しいんだか…」
トーマは呆れてこめかみを掻いた。
「でもそう書いてある以上しょうがないわ」
「場所はカウルスの家だな、行くぞ」
「ああ」
カウルスの家に到着し、ノックをして中に入ろうとした。だが、昨日と同じく反応はない。
昨日と同じようにドアを押せば、やはり鍵はかかっておらず軋んだ音を立てながら開いた。
〔あの男に防犯という観念はないのか?〕
とトーマは思いながら中に入った。
その時奥からカウルスが顔を出した。
「なんか用か?」
「いや、ギルドの仕事で来たんだが…」
トーマがそう言うとカウルスは「おー、そうかそうかッ!」といかにも嬉しそうにトーマの肩をバシバシと叩いた。彼はとても迷惑を被った顔をしたが、カウルスに気にする様子もない。
「とりあえずこっちだ。準備は終わってるからすぐにでも始められるぞ」
三人は昨日見た大きな部屋に招かれた。改めて説明すると、上4階分、横にその部屋を含め3部屋分の天井と壁を打ち抜いて部屋を作っている。壁には幾つも同じ模様が点々と記されていた。これが昨日ミラが言っていた「対魔法結界」の陣だ。
「で、私たちはこれから何をすればいいんだ?」
トレアが訊くと、カウルスはニヤニヤしながら部屋の真ん中に移動した。
「簡単だ。お前たちには…」
そう言いながら3枚の紙を床に置いて、胸の前で合掌した。するとその3枚からそれぞれ青い色の下半身が逆さ円錐の形をした一つ目の人型の物体が姿を現した。
「こいつらと戦ってもらう」
「なっ?!」
「なんだと?!」
「大丈夫だ、戦うっつってもこいつらはお前らの命を狙いに行くわけじゃねぇ。ただこいつらの動きやなんかを見たいわけだ」
とカウルスは言ったが、下手にぶつかれば大けが必至という外見をしている。
青みを帯びた甲冑を着たようなそれは、四本指の手をして腰から下が前述のとおり円錐を逆さに向けた形だ。躯体は地面より20センチほど浮いており、一面一面が三角形の縦長な八面体の形の頭部に一つ赤い目玉のような箇所が怪しく光っており、躯体は2メートルは優に超えている。
「こいつらは俺の式でな、新しい具象陣を使って出してるんだが、まだ詳しいことがわかってねぇ。計算通りならいい動きをしてくれるんだが、それは『動くちゃんとした標的』相手に確認しねぇとな」
「…で、こっちの武器は?」
トレアが訊いた。
「ん?おめぇ(トレア)は腰の剣があるし、あんた(ミラ)は背中の弓でいいじゃねぇか。んでおめぇ(トーマ)は…まぁ何とかしろ」
「…ずいぶんいい加減だな…」
トーマが小声で言うと、ミラはくすくすと笑った。
「とりあえずこいつらの具現化時間は20分間に設定してある。勝敗とかは関係ねぇから」
「わかった…」
「んじゃ始めっか」
3体の式は三方に分かれてトーマたちに迫った。
「来たわよ」
「取り囲む気だな」
その通り。3体は3人を取り囲みゆっくりと周回した。
「二人とも、目を離すな…」
トレアはそういいながら剣を抜き、正面に構えた。
3体は同時にそれぞれに襲い掛かった。トレアは剣で、ミラは前足で防ぎ、トーマは左へ跳び退いた。
「くッ…」
トレアの口から声が漏れた。剣がギシギシと軋んでいて、式の力の強さを物語っていた。
彼女は剣で防いでいた式の拳を、剣を傾け自分の右側に落とした。そして式の腕を2歩3歩踏んで跳び、空中で1回転しなが
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録