「私がエヴァニッチ・ボレーノだ」
男はそう言った。
「私はミラと言います」
「俺はトーマだ」
「トレアだ」
「よろしく、三人とも」
エヴァニッチは物腰の丁寧な男のようだ。
「用件は何かな?何か訊ねたいことがあるそうだが…立ち話もなんだ、応接室でお茶でも飲みながらどうだね?」
「はい、いただきます」
3人の通された応接室には高そうなソファーとテーブルが置かれていた。トーマとトレアはソファーに座った。ミラは相変わらず立ったままだ。
エヴァニッチもソファーに座ると、ドアを開けて入ってきたモノがいた。
「なッ!?」
トーマは思わず声を挙げた。
「スケルトンか」
そう、ワゴンを押したスケルトンが部屋に入ってきたのである。その上には紅茶の入っているであろうポットと人数分のカップがあった。
「その通り。私は『ネクロマンサー』でね、スケルトンを使役しているのさ。そちらの彼…トーマ君だったかな、スケルトンを見るのは初めてのようだね」
「え、ああ…まあ…」
トーマは少し濁すような返事をした。
「ところで、ネクロマンサーというのは?」
彼は隣に座っているトレアに小声で訊いた。
「ネクロマンサーとは…」
トレアに小声で訊いたつもりであったが、エヴァニッチにも聞こえていたらしく彼が説明を始めた。
「要は『死体を自分の配下として使役する』術である『ネクロマンシー』を使う魔導師の事だ」
「死体を?!」
トーマは驚いた。
「なに、別に墓を荒らしてなんてことはしないよ。人によるがね。基本的には生前にそういう契約をしておくのさ、『死後、その遺体をネクロマンシーによって使役することを承諾する』といった内容のね。
私は人間の白骨遺体に魔力が宿って誕生する、あのスケルトンたちを使役している。彼女たちは『生まれたて』こそ、本能のままに行動するので色々大変だが、一旦手懐けてしまえば時折あの体を維持するための魔力を与えるだけでよく働いてくれるよ」
トーマは説明を聞くと、感心したような困惑したような表情をしていた。それも然り、誰とてこうなるだろう。
「ところで、本題の君たちの要件だが。なにか私に訊きたいことがあるとか?」
「ええ。昨日の事なのだけど、時空間魔法を使用したりしなかったかしら?」
ミラが質問した。
「時空間魔法を?」
エヴァニッチは片方の眉をピクリと動かした。
「なぜそんなことを?」
彼がそう聞き返すと、トーマは、
「すまないが、あまり詳しくは…」
と言った。当然だ、「異世界から来ました」などと言えるはずがない。
「そうか、何か事情がおありのようだ。質問に答えるなら、君たちも承知の通り私はネクロマンサーだ。ネクロマンシー以外の魔術も多少なら使えるが、時空間魔法のような高等魔術は私には扱えんよ」
「そう…ですか」
トーマは少し残念そうに言った。
「お役に立てず申し訳ない」
「いえ、お気になされるな」
トレアは申し訳なさそうなエヴァニッチにそう返した。
「じゃあ次はカウルスの所に行ってみるか…」
トーマが何気なくそう言った時だった。エヴァニッチの表情が変わった。
「カウルス? カウルス・オルディンの事か?」
「ええ、ご存じなので?」
ミラが訊ねると、彼は「ええ」と言った。
「知ってるも何も、あのアホ天パと私は昔ともに魔導師の道を目指した仲間でしたが、今じゃ顔も合わせませんよ。あいつはまるで力技ばかりで、ろくなもんじゃないですね。でもまぁ、もしかしたら何かアホのような失敗で偶然時空間魔法を発動したっておかしくはないかもしれませんが」
カウルスを『アホ天パ』と罵るあたり、3人はエヴァニッチとカウルスとはあまり仲が良いとは思えなかった。
3人を玄関まで見送ったエヴァニッチは、最後に冗談交じりに「カウルスの乙魔法の巻き添えにならないようお気をつけて」と言った。
先ほど来た道を戻り、噴水広場を過ぎて西側に延びる道を進んだ。さっきとは打って変わって、道の舗装は所々崩れている。さらに建物はかなり庶民的なものになっていた。
「ここは東側と比べるとかなり荒れたな…」
「庶民区画だからしょうがないでしょうね。でも、治安は悪くないみたいよ」
ミラが言った事にトーマは疑問を抱いた。
「なんで分かるんだ?ミラもトレアも、昨日俺と一緒に来たのが最初だろ?」
「わかるわよ」
「治安のいい町と悪い町は空気が違う。人も楽しそうにしているからな」
「そんなもんか…」
トーマは気にしたこともなかった。というより、元の世界では、人々は淡々と同じ日常をつまらなく繰り返すだけ。
確かに活気はあるし、街中に出ればそれと似たものを感じたかもしれない。だがトーマがそれを感じる機会などなかったのだ。
「ここだな」
3人が立ち止まったのは5階建ての建物の前だ。屋敷
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