1-2 異文の町

 町の中から袋を担いだリザードマンが現れ、しばらく道なりに進んだかと思うと脇の茂みへ入って行った。
「トーマ、持ってきたぞ」
「ああ、すまん」
 トレアから受け取った袋には、トーマのための服が入っていた。
 トーマはパイロットスーツを脱ぎ、取り出した服を着た。
「服の具合はどうだ?」
「ちょうどいい」
「スーツとヘルメット、あと武器は袋に入れて持っていけばいい。ナイフなどは腰にでも差しておけ」
 トーマはスーツとヘルメット、サブマシンガンを袋に詰め肩に担いだ。ナイフとハンドガンはズボンのポケットに入れた。


 町に入ると、トーマは中世のヨーロッパにでもタイムスリップしたような感覚になった。レンガ造りの建物が、いや、目に映るものすべてが、彼には珍しかった。
 元の世界ではレンガなどほとんど見かけはしないうえ、路上に商店が出ていることもない。さらに旅人らしき者たちが思いのほか多く、トーマはこんなに大きな袋を持っていては目立つだろうと思っていたが、それが杞憂だったと知る。
 人間たちはトレアや他の魔物が行き交っているにもかかわらず、それらに目を向けることはなかった。当然だろう、トーマと違い、彼らにはそれが当然なのだから。
 トーマは前を行くトレアが急に止まったのでぶつかった。
「おっと…」
「うわっ!…こら、よそ見をするな」
 頭一個分ほどある体格差のせいでトレアは軽く突き飛ばされた。彼女はそのブロンドの髪を靡かせながら勢いよく振り返ると、トーマに文句を言った。
「お前にとって物珍しいのは分かるが、前くらいちゃんと見ろ」
「ああ、すまない」
「全く…着いたぞ、ここだ」
 トーマは看板を見た。そこには見慣れた文字で「宿屋」と書かれていた。
「ここは宿屋か?」
 彼は一足早く中に入ろうとしているトレアに訊ねた。
「そうだ。それがどうした?」
「いや、ただこの世界は文字も同じらしい」
 そう言いながらトーマは中に入った。
 ドアを入って右側には階段、その向かい側にカウンターがあった。カウンターの中には女性が一人立っている。
「そうか、それは都合がよかったじゃないか。私たちはここの二階の部屋に泊まっているんだ、お前はノルヴィと同じ部屋で構わないな?」
「ああ」
 トレアについて二階に上がり、左右に伸びた廊下を左に行き突き当りの部屋に入った。

「いま戻った」
 トレアは中にいたノルヴィとミラに言った。
「ええ、そろそろだろうと思ってたわ」
「おや、結構似合ってんじゃねぇの」
 ノルヴィはトーマを見ながら言った。
「ならいいけどな…」
「大丈夫よ、私も似合ってると思うわ。まぁ座って」
 ミラの言葉に従い、彼はベッドに腰を下ろした。
「さっきも話したけど、私たちは旅の途中よ。そしてその道すがらに『あなたをここに連れて来た魔導師』を探す手伝いをするわ。そこまではいいわね?」
「ああ」
 ノルヴィ、ミラ、トレアの三人は旅をしている。元々ノルヴィが行商人として各地を回っていたが、その道中にミラとトレアと出会ったのだ。ミラは大陸の東の故郷である草原、もとい生まれ故郷の村に帰る途中であった。トレアは故郷を離れ、各地を転々としながら「婿さがし」を続けていたのである。
 二人とも旅の途中で有り金が底を尽きかけていたため、ある街でギルドの「護衛募集」の項目を見た際にノルヴィの項目を見つけたのだ。ミラはケンタウロス、トレアはリザードマンとどちらも戦闘を得意とする種族であったために彼の護衛に手を挙げたのだ。
「ただな、旅をするのにも宿に泊まるのにも、それなりに金がかかってくるわけで…そりゃ人数が増えれば食費やらなんやらで出費が増えるのが当然だ。俺は言った通り行商人だが、その収入にも落差というものがあるし、品入れにも経費が掛かるもんだ」
 ノルヴィは演説をするようにそう説明した。
「何が言いたいんだ?」
 トーマはじれったくなりそう言った。
「簡潔に言うと、私とトレアの食費と宿代、あと武器の手入れや補給にかかる経費も、すべてノルヴィの収入から『任務報酬』として出ているの。
 それは私たちがノルヴィを野盗や盗賊から護衛からよ。そしてそれは私たちが『旅を続ける』という目的にノルヴィの『危険からの保護』という目的が合致したから成り立つわ」
「お前の目的は『魔導師を探すこと』だ。俺たちは右も左もわからないお前に同行して、宿、飯の世話をする。なら、俺たちはそれに見合う分だけの見返りをもらわないとならないわけだ」
「なるほど。つまり『魔導師を探す手伝いをする代わりに、三人のために何かしろ』ということか…」
「その通り」
 ノルヴィは人差し指を弾くようにぴんと立てた。
 トーマは小さく2、3度頷くと、
「それで?俺は具体的に何をすればいい?」
と具体例を求めた。見たこともない世
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