ここは、ジパング地方のとある国の城下町。いつも、大勢の人で賑わってごった返してる。
ウチは、その下町の隅でひっそりと暮らしてる。町のみんなは、たまにご飯もくれるし、それなりに相手にしてくれる。
ウチはいつものように、ねぐらからの散歩道をいつもの調子で歩いてた。すると向こうの方で人だかりができてるのが見えた。
「野郎ッ、てめぇやんのかコラッ!」
「おぉう、やってやろうじゃねぇかッ!」
喧嘩や。よくあることやから、べつに珍しくもないのに…なんであんなに集るんやろう?ウチには不思議でたまらない。
ウチは人だかりから少し離れて壁際を歩いていた。ここなら被害被ることはないはず。
「うぐっ!」
人ごみを割いて、男が一人飛び出してきた。男は鼻血を噴き出させ、壁に立てかけられていた板に当たった。
板は、群れになってウチに…倒れてきた。
「にゃあッ!」
上手く避けれんかった。左前脚に当たって、皮膚が削げた。血が流れてて、一応舐めてはみたけど、そんなことでは当然済まへん。
そんなうちに気が付いたんか、うちの周りにも何人か集まってきた。
「あら、かわいそうに…」
「ひでぇな、皮膚が剥がれてるぜ?」
みんな口々に「かわいそう」やとか「ひどい怪我や」とかいうけど、だれも何もしてはくれへん。あ〜、ちがう、何もできへんのや。
「どいてくれ」
人をかき分けて、一人の男がうちの前に跪いた。ウチは条件反射で後ろに退こうとしたけど、前足の傷が余計に痛んだだけやった。男はウチの傷ついた前足を優しくつかんで、木箱の中から臭いのきつい液体に浸った木綿玉を、細い金属の箸みたいな棒で取り出した。
それでウチの傷口をチョンチョンと叩いた。
「にゃーーーーッ!!ニャッ、ニャァーッ!」(いたーーーーッ!!ちょッ、イタァーッ!)
えげつなく痛い。あまりの痛さに腕をつかむ男の腕をひっかき、ついには噛みついてもた。
「あだだだだだだッ!?ん………よしよし…痛かったな、すまんすまん…」
男はそういうと、腕に包帯を巻きだした。自分の腕や手から血が流れているのも気に留めず、包帯の端を結んだ。
「さて」
男はそういうと、ウチの体を持ち上げた。
な、なに、なにする気?
ウチは驚くあまりに、身を固くしてしまった。ウチはそのまま男の腕に抱かれて揺られて、気が付いた時には男の家らしいところに入っていた。
ようするに、ウチはお持ち帰りされてしまったわけや。
男はウチをそっと下ろした。そして部屋の棚や押し入れの中をひっくり返して、何かを探している風やった。
「お、あったあった…」
男は布きれと淵の低い籠を持ってきて、ウチの隣に籠を置き、布を中に敷いた。彼はウチをその布の上にゆっくりと寝かせた。
「にゃあ?」(なに?)
ウチは通じるはずもない言葉で訊いた。けど、たぶん雰囲気とかで分かったのかもしれん。男は答えた。
「ん?ああ…お前の怪我はしばらく面倒見ないといけないからな、おとなしくしといてくれよ?」
男はウチの頭を撫でようとした。けど、ふんわりと漂ってきた男の匂いが…匂いが…にお…
ウチは咄嗟に籠から飛び出ていた。
「…ははっ…まぁいいさ。あんまり動き回るなよ?」
男は笑ってそう言った。
彼は良くしてくれた。毎日消毒と包帯の交換はしてくれるし、ご飯もくれた。包帯の交換と消毒のたびにウチが引っ掻いたり噛みついたりしても、怒りもせずに宥めた。
彼は町のはずれに住んでいる。どうやって生計を立てているのか、しばらくの間は分からなかった。それがわかったのは、この家に来てから五日が過ぎたときやった。
「ショウゼンはんッ、ちょっと診てくれまっか?!」
いきなり一人の男が飛び込んできた。その男はあわてた様子でそう言った。
「どないした?」
「東龍一家の若頭が、西虎一家の奴らに切られたんやッ!ひどい傷やねん!」
「わかった、そこに寝かせッ」
その男の後ろから、二人の男が血だらけの男を肩に担いで入ってきた。男たちは指示通りに床に寝かせた。
「左鎖骨から右脇腹にかけて切断…鎖骨…肋骨…腹筋と腹斜筋が切断されとる。間合いに入りきっとらんかってよかったな、動脈は無事や。出血も比較的軽い…すぐに魔陣療術で細胞結合を施して止血する」
そいつは慣れた様子で肉のすっぱりと切れた傷口を見て、診断した。それでウチは分かった、この男は医者やったんや。やからあの怪我をした時もすぐに処置してもらえた。
彼は床に寝かせた男の周りに、棚から取り出した円筒に入ってた筆と、その円筒の反対側の墨入れの墨で丸い模様を描き始めた。
それはよく魔陣療術に使われる紋様やというのはウチかて知ってる。ただ、間近で見たんは初めてやった。それに加
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