被験体003 毒物名「FRUSTRATION」

 彼女が目を覚ました時、そこはフカフカとしたベッドの上だった。ただ足首に冷たく硬い感触を感じ、それが鎖で壁と繋がれた足枷であることを視認した。
 なせこんな事になっているのか、記憶を辿った。
(何でこんな事になってるのかしら…? えっと………………)
「あぁあっ!あの人間ッ、よくも私をぉッ!」
 全てを思い出したセオナは思わず怒号を上げた。そしてベッドから起きあがり鎖を千切ろうとした。
「ソレ、無駄ト思ウヨ?」
「え?」

 後ろから突然声を掛けられ、セオナは驚いて振り向いた。そこには円柱の形の大きな水槽に入ったスライムと、その隣の同じ形の水槽に入ったバブルスライムがいた。
「新しく捕まってきた方でしょ?」
 少し片言で喋るのがスライム、流暢に喋るのがバブルスライムだ。
「あなた達は?」
「一モ、二モ、彼ニ捕マッタヨ」
「そう。あなたと同じようにここに連れてこられたのよ」
「二人もか?!」
 セオナは水槽に近寄った。
「ソノ鎖、絶対二切レナイ。彼、言ッテタヨ」
 とスライムは言った。
(そうか…あの椅子の枷と同じ物なのね…)

 セオナは次に水槽をマジマジと見た。
「この水槽もそうなのか?」
「そう。一応ガラスか何かみたいだけど、とても割れないの。私や1が水流になっても割れなかったから、あなたでも無理ね」
「1?」
「ええ、彼女の事よ。1は彼女の名前、私は2という名前よ」
「彼、私タチニ名前クレタヨ」
 1はニッコリと笑った。

 何かが違う、とセオナは思ったが、あえてそれで通すことにした。
「平気なのか、こんな所に閉じこめられて…?」
「平気ユウカ、トテモイイ。コーユーノ何テイウカ?」
「快適よ」
「ソウ!快適ネ」
 2の言った言葉を1が笑顔で繰り返した。
 セオナは驚いた。快適とはどういう事だろうか。

「どういう事だ?」
「この中は温度や湿度が一定で、たまに私には濁水、彼女には清水を入れてくれるの」
「そうなのか…」
 セオナは首を傾げた。
「アナタモ、ゴ飯アルヨ?」
 と1が指さしたテーブルの上においしそうな料理が置かれていた。
「ほんとね…」
 セオナはキョトンとした。
「そう言えばあなたの名前は?」
「え?あ、私はセオナよ」
「セ…オナ?彼ガ付ケタカ?」
「いいえ、親の付けた名前よ」
「ソウカ。私タチ、ココ来ルマデ名前ナカッタナ」
「そうなの…でもヴェノムには何かしらされたんでしょ?」
「ヴェノム?」
「ヴェノム、ダレカ?」
 予想だにしなかった反応だった。
「あいつのことだ、私たちを掴まえた…」
「彼、ヴェノムというの?」
「いや、本名じゃないらしいが……知らなかったのか?」
「初メテ聞イタヨ」
 どうやら二人にとっては彼は彼であり、二人の間では『彼』とはヴェノムの事をいうのだ。
 『彼』から『ヴェノム』になったところで、セオナは話を戻した。
「二人は何もされなかったのか?」
「ウウン、一杯サレタヨ。キモチヨカッタナ…」
 1はうっとりしてしまっている。一体何をされたのだろう。
「私もされたわ。気持ちいいだけではなかったけど、一番驚いたのは、私のガスが全く聞いていないのに衝撃を受けたわ」

 バブルスライムのガスと言えば、いわずと知れた即効性の毒ガスである。それが聞かないとはいやはや…
 セオナはますますヴェノムが人とは思えなくなってきた。
「まぁゴハンでもどうぞ。お腹空いてない?」
「いや、空いていないことはないが…何か入ってるかも…」
 当然の感想だ。盛るには最適、入っていないと思える方がおかしいはずだが。
「ヴェノム、実験ノ時以外、毒使ワナイヨ」
「そうなの?」
「ええ、そうよ」
「ヴェノム、言ッテタヨ。毒使ウ時、スゴイ疲レル。ソレニ『キロク』ト『ショチ』ガ出来ナイトダメダカラッテ」
「そうか…」
 セオナはそれを聞いたことと、空腹感を憶えたためにそこに用意された食事に手を付けた。


 食事を食べ終わってしばらくした時に、彼が部屋にやってきた。
「食事は取った様だな…」
「ヴェノム、名前ヴェノムダッタカ。知ラナカッタナ」
「なに…?」
「あなた、名前を教えてくれなかったでしょ?」
「なんだ…イチもニもそんな物を知る必要はなかっただろう。それより、おい、セオナ。『仕事』だ」
 ヴェノムはベッドに座っていたセオナを向いて言った。セオナは眉間に皺を寄せた。
「…嫌よ」
「…何を勘違いしている?」
「え?」
「お前に、拒否を含めた意思選択などここにはない。今のは、ただの報告であって、お前の意思を確認する事ではない。お前が拒否しようが、俺はお前を連れて行く」
「なんだとッ」
 そう怒鳴った瞬間、彼女は異常を感じた。

(…視界が……意識も………)
 彼女はベッドの上に倒れ込んだ。
 ヴェノムは意識のない彼女の足枷を
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