閑話 滝の畔で

 誘拐事件を解決してからすでに2つの町を過ぎていた。町自体は近く、実際は滞在時間を含めて2週間弱の時間が過ぎていた。
 さて、普通なら今頃一行は次のボナルフという町に到着したはずなのであるが、一行は今ほぼ真北の方向を向いて、川のそばの道を歩いている。町はそこから東の方角である。
 なぜ彼らがそんな場所を歩いているのかというと、ここ2日間この一帯は雨が降りつ続いた。そのため、前の町とボナロフとの間にある南北流れる川の水が増加し、橋が流されてしまったのだ。川幅も広く、水深も深い上に水かさも増しているため

途中で渡るようなこともできず、仕方なく上流を通って迂回してくることにしたのだ。
 ただ上流と下流なら上流の方が近いのだが、どちらにしろかなり遠い。夕方近くなっても半分強の距離しか進めていなかったのだ。

 と、そんな大変な事態もあるのだが、もう1つだけいつもとは違うことがあった。
 朝早くに町を出てからトーマもトレアも気にかかっていることがあった。
「もうそろそろ半分も過ぎたか?」
「さぁな。ミラ、そろそろ半分か?」
 と、トレアがミラに訊ねたのだが。
「・・・・・」
「ミラ?」
「えっ?ええ…そうね…」
 2度目の呼びかけにやっと気づいたミラは慌ててそう答えた。
「どうした、今日はおかしいぞ?」
「体調でも悪いのか?」
「う、ううん、平気、大丈夫よ…」
 ミラはそう言い張るが、2人はどうかしたのでは?と内心心配していた。
「ちょっと…ゼェ…お3人さん…ハァ…そんなスタスタと…ヒィ…先行かないで…」
 トーマ達3人の後ろ15メートルほどで息を切らしながら、おっさんが1人荷車を牽いていた。
「ノルヴィ、いつもよりバテるのが早いぞっ」
「いつもより荷物が多いんだものッ!」
「…だから私は昨日少し買い過ぎじゃないかと言ったんだ」
 昨日町を出る準備をしたのだが、良い品物が定価よりも安く売っていたため買い込んだのだ。それは日用品から、旅の必需品、武器や魔導具にまで及んだ。
「あのな…自分のこと棚に上げて何言ってんだよ…昨日買った荷物の中で一番重量と量(かさ)稼いでんのはテメェの武器だろうがッ!」
 と、ノルヴィは反論したが、実際その通りである。正確に言うと、トレアが次の町は旅人や、戦士志願の者たちも通るため武器もあれば売れるだろうと言い、他の3人がOKしたのを良いことに買い込んだのだ。
「いや、そっ……そもそも、お前自身に体力がなさすぎるのが悪いんだ、この辺でトレーニングもしていろ!」
 完全にごまかしである。
「ひぃ…もう無理。腕も足もパンパン…死ぬ、四肢が千切れ飛んで血反吐吐いて死ぬ…トーマくーん、交代してくれー…」
 ノルヴィは足を止めてぼやいた。
「…まぁ、今日は仕方ないな…」
 トーマはそう言ってノルヴィと車を牽く役を後退した。
「やぁ〜〜、助かったわ少年!マジであのトカゲ娘の暴挙に殺されるかと思ったわ…」
「ふんっ…!」
 トレアは腕を組んでふてくされた様に目を逸らせた。
「…もう膝笑ってるし、大爆笑っ。ミラっちちょっとで良いから乗っけて…」
「あ、ばかっ!」
 とノルヴィはミラの獣身の背に触った。
「ッ…!」
「うわ〜、ゴメンッ!冗談だから…っ!」
 ノルヴィはそう言いながら慌てて飛んでくるであろう蹄鉄と弓に備えた。トレアもそう言う反応があると思っていたのだが。
「あ、あれ?」
「どうした、ミラ?」
 ミラは硬直し、暫く静止していた。トレアがどうしたのかと訊いてやっと動いたのである。
「う、ううん…ノルヴィ、次やったら怒るわよ…?」
「は、は〜い…」
「行きましょ…」
 ミラはスタスタと歩き始めた。
「・・・・・」
 トレアもそれに続いて歩いていき、その後を眺めるようにノルヴィはミラを見ていた。やがて彼も歩き出し、トーマも荷車を牽いた。
〔…ホントに重たい…〕
 トーマはノルヴィが心から気の毒になった。
 彼もそろそろ疲れが見えたころ、一行は河原で一夜を過ごすことになった。ただ、テントは近くの草原の上に張った。河原の石の上ではごつごつしてとても眠るどころでないのは目に見えている。
「飯も食ったし、そろそろ寝るかぁ〜」
「そうだな」
「俺ももう寝るとするか…」
「私は番をしてるわ」
 と3人は火を焚いたまま番のミラを残してテントに向かった。戻ろうとするノルヴィにミラが声をかけた。
「…ノルヴィ」
「あん?どったの?」
「…後でまた来てくれない?」
「なんでまた?」
「いいから…でないと、あの事件の時の事ばらすわよ?」
「ぇっ…!?」
 あの事件とは、前章の件のことだ。あの時ノルヴィはミラに弱みを握られたのを皆さん覚えておられるだろうか?
 ミラのミラらしくない脅迫にノルヴィは「ぁ…はぃ…」と正直疲れているのだが従う以外の選択
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