「…やっぱりあなたですか…」
彼の横には馬車の荷台ほどもある大きな箱が10個も並んでいた。そして横を向いた彼はシルクハットにステッキ、黒の紳士服にひげを蓄えていた。
「やっぱりあなたですか…トーマス・ハンソン」
そこにいたのは依頼主のハンソン氏だった。彼は向きなおると「おや、お揃いで…」と一言。
「ハンソン殿、ここで何をされているのですか?」
ゴードンは訊いた。ハンソンはごく普通な様子で「なに、ただの点検ですよ」と答え、続けた。
「明日、ここにある荷を出荷するのでね。何ぶん、長期保管していましたから不備がないとも限りませんからこうして点検を」
「ハンソンさん、ここはなんです?」
「ここは見ての通り倉庫ですよ、お得意様に出荷する品物の。お得意様方は遠方にいらっしゃるので、これだけまとめて送る方が便利なんですよ。港までは少し遠いですしね。これほど大きいと馬車の特注の物で、馬も三頭はいりますよ」
ハンソン氏は、鉄でできた箱、そう、コンテナという方がいいだろう。それを撫でながら彼は言った。
「おや、ケンタウロスのあなたには失礼な言い方でしたか…失礼」
「いえ…馬は確かに私どもの眷属ですが、それぞれ身分がありますから、どうぞお気になさらず」
ミラは澄ました様子で言った。
「ところでハンソンさん…」とトーマは静かなトーンで話し始めた。
「その中身はなんです?」
訊かれたハンソン氏はまたごく普通に返した。
「これの中身ですか?申し訳ありませんが、それはお話しできません。信用にかかわりますので」
「信用、か。俺なりの推測を話しても?」
「…ええ、構いませんが、正否はお答えしかねますよ」
一拍間が空いて、トーマは話し始めた。
「…俺は、そのコンテナの中には数人の女性、魔物たちが入っていると思っています」
その一言を聞いた保安兵たちはどよめいた。
「君、彼は捜索を依頼した一人だ、そんなことあるわけないだろっ」
と一人の保安兵がトーマの肩を掴んだ。
「ああ、そうすれば彼は今のように容疑者から外れる。何より、自分の会社の社員が行方不明になって、何もしない方が不自然だ。社員たちの言うように人受けの良い社長として振る舞っていたなら尚更な。そしてそれにはもう一つの使い道がある」
トーマは彼の手をどけながら話した。すると、ハンソン氏はステッキで床を小突くように叩いた。
「私は人に犯罪者扱いされて、いい気でいるようなできた人間ではないよ、トーマ君」
彼のその目には、少々疑心と憤りが込められていた。
「…だが、反論は全て君の話の後にさせてもらうとしよう。続けたまえ」
ハンソン氏は後ろを向くと両手をステッキの持ち手に沿え、凛と立ち直した。
「あなたはまず、上手い儲け話とそれを成す為の『商品』の入手方法を思い立った。そして、その方法をまず自分の会社の社員で試したんだ。その方法はどんなものかはわからないが、なるべく痕跡の残らない方法だろう。そしてその商品とは魔物や女性たちだ。
そしてその方法を社員と浮浪者だった魔物や女性たちで幾度も試し、商品も同時に得ることに成功したあなたは次に、もっと痕跡の残りにくい方法を取った。それは、保安に出していた被害届も利用し、町の人々と面識も比較的少なく、いつの間にかいなくなっても不審でなく、さらにこの町の立地をも味方に付けた方法…旅人を標的にすることだ」
静聴していたハンソン氏は「なぜ旅人を?」と説明を求めた。
「旅人なら、急にいなくなっても旅に出発したと思われ不振がられず、もちろん町の人と深い関わりがあるわけでもない。そしてこの町は商店が多く、資材を整えるにはうってつけで旅人が多く立ち寄る。
また旅人にとって金の価値は他人より高い。報酬のいい仕事があることをチラつかせれば、食いつくことは多いだろう。それに『手掛かりを増やすだけでもそれなりの報酬を渡す』などと言えば、その依頼のハードルはかなり下がるだろうしな
だがそんな依頼は普通ギルドではなく保安に出すのが自然だ。だが保安に依頼を出した後なら、それもあり得るだろうな」
「トーマ君…」とハンソン氏は話し始めた。
「君の言うそれは推測だ。確かに理由としてはなくはないだろう。だが、それだけの女性たちはここに閉じ込められ続け、何も抵抗しないと思うかね?声や物音が聞こえないような厚さはこの箱にもその扉にもない。それに君は知らないのかね?この町を出入りする荷はハーピーたちの運ぶものも含め全て保安によってチェックされる。そうだな、君」
ハンソン氏はハーピーに確認した。
「はい、そうです」
「ほら見ろ。それに君たちもここに入る際にされたろう?」
確かにコンテナも扉もそれほど分厚いわけでもない。声を挙げられなかったとして、物音くらいは立てられるはずだ。それにこの町を出
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