「リストした内の15名が立て続けて………死亡してるんです…」
名簿の黒い文字の上から赤い線が引かれている。その数、15本。
「どういう事だ?!」
幟狼は頭を掻きながら口走った。
「諜報班からの報告では、策科の亡くなった日から今日までの間にこの15人が死亡したと思われます」
「待て…思われる、ってのはどういうことだ?」
「死体が一人として発見されていません。それに全員が事故で亡くなっているんです」
「龍瞳と魅月尾には知らせたのか?」
「ええ、乎弥がこの情報を持って向かいました」
「そうか… 誰がどう見てもきな臭いな…」
「それに…見てください。それぞれの住んでいた領と役職も明記したんですが…」
「これは…」
幟狼はすぐにその事に気づいた。
死亡したと思われる15名の内、4人がヘアフォード領の外交官、常備軍少佐、評議員、査問委員官だったのである。
また残りの11人も他領の外交官、並びに幹部だったのである。
「ますますきな臭い…」
「まずこの15人が―」
「グルだと考えていいだろうね…」
龍瞳は布団の上に座ったままそう言った。
「やっぱりそうですよね…?」
「死んだことにしてどこかに身を隠したのかしら?」
お茶を運んできた魅月尾は、盆を畳の上に置いてそう言った。
「だと思う。でもこいつらの目的がハッキリとしていない今、次にどう動くのか予想できない…
また子暁を狙う可能性だって十分だ…」
「それもそうですが…龍瞳さんはもう起きて平気なんですか?」
「ああ、心配ないよ」
「それからずっと気になっていたんですが、刀はどこに?」
この部屋のどこを見回しても、彼の愛刀の姿はどこにも見あたらなかった。
「実は、少々問題があってね…」
一時間前に帰ってきた魅月尾とボルトスは、刀匠 影守鋼に大雅丸と貴太夫を預けてきた。
「この世には、その名を知られた妖刀が数多く存在する」
鋼は二人にそう話を切りだしたという。
魅月尾によると、鋼の話は次の事だったという。
妖刀の多くは斬った対象の魔力をごく僅かに取り込み続けた結果、その魔力に支配されて妖刀となったのだという。
斬られた者の発する魔力には大抵の場合『恨み』『苦しみ』『怒り』などの負の感情がこもっており、魔力が及ぼす影響を災いとする。
妖刀は血の味を覚えた獣のように持ち主の命すら奪い取ることがあり、非常に危険だ。それを防ぐために『浄化』する必要があるのだという。
浄化とは掻い摘めば『鍛え直すこと』をいう。刀身を加熱し、鍛え上げて汚れを落とすのだ。
その行程は少なくとも一週間を要するという。
しかし、こうもいきなり妖刀化が進むと言えばそんなことはない。通常なら徐々に徐々にその前兆を現し、そうならぬようにその刀を打った刀匠に清めてもらう。ならばなぜ大雅丸と貴太夫は突如として黒く汚れを現したのか。
それは『魔力伝導率』と『今回の事件』が関係している。魔力伝導率とはその名の通り魔力の伝えやすさだ。
大雅丸、貴太夫は伝導率の高い金属で作っていた。持ち主の魔力が伝わりやすいのと同じように、相手の魔力も比較的伝わりやすい。
そして今回の策科を斬ったことで『悪意』を含んだ策科の魔力、また龍瞳が死にかけたことによって、龍瞳から放たれた『死相』を含んだ魔力が刀に伝わり、妖刀化を後押しする結果となったのだ。
「でも何でその刀匠の方は妖刀化に気づいたんですか?」
乎弥は不思議に思って訊いた。
「片割れがあるのさ。必ず刀を作った時にその刀の欠片を取って置くんだ。妖刀化が進むとその片割れにも影響が出るらしい。主に色や形が変わるら
しいんだ…」
「なるほど…
じゃあ、もし戦闘になったら危ないんじゃ…」
「大丈夫だよ、呪札も使えるし…それに、魅月尾もいるからね」
魅月尾は静かに頬笑んだ顔で頷いた。
「そうですね。でも、無理はくれぐれも…」
「解ってるわ、乎弥ちゃん」
◇
その日、龍瞳は朝から風呂に入っていた。
彼は風呂から上がると用意されていた着物に袖を通した。桃色や赤の花が夜に咲いているような柄のそれは明らかに女物だった。
それでも顔立ちが中性的で髪の長い龍瞳にはそれが似合った。
「傷跡…どうだった?」
「大丈夫、残ってないみたい」
「よかった…」
龍瞳は食卓の前に座った。
「そういえば、魅月尾は誰に料理を習ったんだ?」
「え?」
「ずっと不思議だったんだ。魅月尾はここに一人だったわけだし、誰に習ったのかなって…」
魅月尾はハッとした。なぜならそれが解らなかったからだ。
(誰に…なんだろう… そう言えばここにも…気が付いたら住んでた……)
魅月尾は思考の奥に迷い込んだ。今まで考えたことがなかった、自分が出来ることを誰に、どうや
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録