本心、愛交、祝福

 ついに手が放れた…
 彼女の体をフワッとした感覚が包んだ…


 次の瞬間、急にその感覚がなくなり腕にぬくもりを感じた。はっとして上を見上げたロザリアは言葉を無くした。
 左手で蔦を掴み、右手で彼女の腕をしっかりと握った男が一人。
「ウィ、ウィル…!?」
 彼は何も言わずにロザリアを引き上げ、抱きかかえた。
「しっかり掴まっていてください」
 そう言うと崖面を歩くようにして振り子のように勢いを付けて、一気に崖の上に登った。

 崖の上でウィリアムは片膝を付き、ロザリアはそのまま地面の上へ座っていた。
「大丈夫ですか、お嬢様?」
「え、ええ…どうしてここが?」
「屋敷に一度戻りましたが居られないようでしたので、しばらく捜していますと、車いすの車輪の跡を見つけましたので追って参りました」
 そう言うとウィリアムは不思議そうな顔をして質問をした。
「ですが、なぜこの様なところに?」
「聞きたいのは私の方よっ!今までどこにいたの?」
 ロザリアはウィリアムの服の胸の当たりを握って言った。
「はい?ロケットを探しに出ておりましたが…」
「ロケットを?ならばどうして何も言わず、書き置きの一つも…」
「書き置きならちゃんとお嬢様の机の上に置いておきましたが?」
 きょとんとしてウィリアムは答えた。
「何もなかったわっ!」
「…もしかすると何かの拍子に落ちてしまったのかもしれませんね…」
「だとしてもこの二日間探し続けたなんて、いくら何でも長すぎるっ!
 せめて夜には帰ってくるべきよ!」
「…それには訳がありまして…ここで居るわけにもまいりませんので、屋敷へ戻りながらお話しいたします」
 ウィリアムはロザリアを抱きかかえ、屋敷へ戻りはじめた。

 彼はしばらくして話を始めた。
「私がロケットを探しに出たのは二日前の日中です。当初は夜には一旦戻るつもりでおりました。
 時間の許す限り私は探し続けましたが、やはり見つかりませんでした…」
「………」
 ロザリアはただ黙ってその話に耳を傾けていた。
「夕暮れになった頃、光に気づき崖を見上げると、崖の途中から伸びた枝にロケットが引っ掛かっていたのを発見し、直ちに取りに向かいました。
 見つけて油断したのか、運が悪かったのか…足場が崩れ私は結構な高さから崖下へ転げ落ちました。
 次に気が付くと、私はベッドに寝かされていました。偶々通りかかった方が病院に運び入れてくれたのだと、医師から聞かされました」
「それで…平気なのか…?」
「ご心配には及びません。今は全く問題有りませんから…
 …ただその時は激しく体を打ち付けていたらしく危なかったそうですが、躯がインキュバス化していたのが幸いして、回復が思いの外早く、すぐに退院出来ました」
「…そうか」
「はい。目が覚めたのが今日の昼で、そこから退院を許されるまで結局半日掛かってしまいました…」

 二人は屋敷に入り、ウィリアムは代えの車いすを用意し、ロザリアを座らせた。
「どうぞ、お探しのロケットです…おそらく壊れていないと思いますが…」
 ウィリアムはロザミアの部屋でロケットを渡した。
「………。たしかに無事なようね…」
「申し訳有りません、元はといえば私の不注意の致しましたところ。私が留守にしてしまった間、お嬢様には不自由を…」
「ええ、全くよ。料理も自分で取ってこなければならないし」

(違う…)

「このスロープも自分で登らなければならないし」

(こんな事を言いたい訳じゃないでしょ…?!)

「不自由だらけだったわね。とても面倒なことばかりだったわ…」
「申し訳有りませんでした」
 ウィリアムはロザリアの前に出て、頭を深々と下げた。

(私は…またウィルを困らせてる…)

「違う…」


「はい…?」
「違うわ…本当はこんな事を言いたいのではないの…」
 そう言うとロザリアは静かに泣き始めた。ウィリアムは戸惑った様子で声を掛けた。

「お、お嬢様?!どうなさったのです?」
「ウィル…」
「はい…?」
「あなたは私のことが…嫌いよね…?」
「えっ?」
 ロザリアが思い切って振り絞った一言。
「誤魔化さなくても良いのよ…だってそうとしか思えない…」
「なぜ…そうお思いなのです…?」
 ロザリアの上擦った泣き声に、ウィリアムは静かに言った。
「私は…あなたを困らせてばかりで…こき使ってばかりで…わがままを言ってばかりで…
 …あなたは頑張って私のわがままを叶えたり…じっと、私の八つ当たりに耐えたり…なのに…なのに私は…あなたに労いや感謝やお詫びの言葉も掛けないで………」
「…お嬢様…」
 ロザリアの目から涙が溢れだして止まらなかった。
「…あの人形…憶えてる…?」
 ロザミアが指さしたあのぬいぐるみ。ウィリアムは近寄ってそれを持ち抱えた。
「ええ、私が初め
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