小鳥のご褒美

 ピーヒョロロロ…

 鳥の声が山々に響き渡っている。俺は今、暮らす町から離れた山の方に来ていた。空気がおいしい、それに周りには人もいない草原がただっ広く広がっているばかりだ。
 なぜ俺がここに来ているのかというと…

「ふわ、わわわわわっ!」

「危ない危ない危ないッ!どごふっ―」
 俺の背後からとてつもない衝撃を伴い突っ込んできたのは、緑の羽のハーピーだ。赤い髪のショートヘアで、瞳はエメラルドグリーン。
「いたたたたぁ…」
 今彼女は俺の背中に乗って頭をさすっている。俺は彼女の尻の下に敷かれ(物理的な意味で)、背中の激痛に悶絶していた。若干呼吸がキツい…
「ファラ…いい加減退いてくれるか………?」

「あ、タカト。てへへ〜、失敗しちゃった」

「ああ、だろうなっ。そうでなきゃ俺が今こんな背中に痛みを感じているはずがない…」

「ごめんタカトぉ。そんなに怒んないでよ〜」
 そう言ってファラは俺の上から下りた。いや、別に重かったわけではない。どちらかといえばかなり軽かった、心配になるくらいに。
「たっく…それにしても成功率が三分の一ってどうよ?」
 何の成功率かと言えば、『十分以上の飛行』のである。ファラはもう十五になるが、未だにうまく飛べない。これはまずい、とてもまずい。なぜこうなってしまったという理由は、未熟児として生まれてしまったから。否、聞くところによればとても健康な出生であった。理由はたった一つ、サボっていたからである。
 ハーピーはある程度の年齢になれば飛行の練習を行うが、めんどくさがり屋のファラはそれをせずに今までだらだらと来てしまった。そのしわ寄せが俺を巻き込んでやってきたのだ。あ〜ほんとにはた迷惑な話…
 俺とファラの関係は幼なじみの関係だ。俺が二つの時にファラが生まれ、それからずっと一緒に遊んだりしていた。家も近くで、両親とも仲がいい。それもあって今年の春にファラが俺の家にやってきて
「タカトーっ!お願いっ、空飛ぶの手伝ってぇーーっ」
と泣きついてきた。最初は訳がわからなかったが、保護者として付き合わされることになってしまった。それから週に数回ここへ来て彼女の飛行練習に付き合っている。

「じゃあ、もっかい行って来るね〜」
 ファラはそう言うと助走をつけて羽ばたき、空へ舞い上がった。はじめの頃は一人で飛び立てもしなかったなぁ〜、なんて言うことを思い浮かべながらその光景を遠い目で見てる俺。
 飛び上がってからしばらく経った。辺りで旋回を繰り返して戻ってこようとしていて、何とか十分以上は飛べている。なんとも気持ちよさそうに飛んでいるのを見て、少し羨ましくなる。やはりハーピーだからだろうか、飛んでいるときが一番活き活きしているように見える。
「タカトーッ、飛べてるよーっ!」
 うれしそうに俺に向かって叫んだ。
「ああー、とりあえず下りてこーい」

「はーい」
 と、そのとき突風が吹いたらしくファラは煽(あお)られてバランスを崩し、そのまま生えていた木の葉の中に消えた。
「キャアッ!」

「…あ〜ぁ、ったく…」
 俺は木の下まで走り、上を見上げた。木の枝に引っ掛かったファラが「エヘヘ…」と苦笑いを浮かべて何とか下りようと藻掻いていた。
「おい、そんな無茶苦茶したら枝が折れ―」
 とたんに折れた。
「きゃっ!」

「わっ!」
 俺の顔に彼女の胸が当たっている。しかし当たっているのは胸骨の固い感触が大半で、柔らかさはあまりない。
「うぅ…木に引っ掛かるし、落ちるし、タカトに胸に顔埋(うず)められたぁー、エッチー」
 ファラは起きあがるとそう言って文句を言った。
「うるさい、文句を言いたいのはこっちだ。背中に突撃されりゃあ、下敷きにされるわ、木に引っ掛かったと思えば下敷きにされるは、おまけに胸はネェときた」

「むッ…」
 ファラは立ち上がってスタスタと歩き出した。
「どうしたんだよ?」

「…帰るぅ。タカトに胸さわられたのに、貧乳って言われたっ!ろくでなしっ、ひとでなしっ!もう帰るぅ!」

「あのなぁ…ん?」
 俺は文句を言ってから再び歩き始めたファラに駆け寄って止めた。
「なに〜っ?」

「ほれ、動くな。怪我してんだろうが…」
 ファラの左の二の腕から血が滲んでいた。俺は持っていたハンカチを傷口に巻いた。
「………」

「…んだよ、黙りこくって?」

「ずるい…」

「何が?」

「そういうの全部っ!だって、あたしのこと怒らせたくせに、すぐそうやって優しくするから…なんか…もう…」

「…はぁ〜、怪我してたんだからしょうがねぇだろぉ?俺はファラのただのクッションって訳じゃねぇしよ」
 ファラは俯いたまましばらく黙っていたが、ふと顔を上げた。
「タカトッ!」

「はい?」

「今から向こうの山のとこ回ってちゃんと戻って
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