やぁ待ちくたびれたよ。さあ、早く着替えて、ボクシングを楽しもう」
ここはボクシング部部室。リングの上、肘をロープに預け、赤コーナーポストにもたれかかって僕を待っているのはボクシング部部長のシルベリア先輩だ。
中性的な端麗な顔、雪のように白い肌、絹織物のような髪を後頭部で束ねたその姿は両性を惑わす美貌を備えている。それもそのはず、彼女の頭には山羊の角状の漆黒の角、腰からは雪を纏った桜のように淡いピンクがかかった白いコウモリ状の翼とトランプのスペード状の形状を持つ先端の尻尾。彼女は魔王の血筋であるサキュバスの上位種、リリムである。
ちょっと話を逸してボクシングの話題に。現在では昔とは異なり、男女がボクシングで対決することが全くの非常識ではなくなった。“魔物娘”という存在が現れ、世界が大きく変容した時、ボクシングという競技も大きく変容することを余儀なくされた。
まず様々な体格を持つ魔物娘のために、従来の体重による階級別区分のみではなく、種属や型(例えば人型部門、獣人型門、サキュバス属部門とか)で分類されて開催されることが多くなった。最も、これは人化の魔法を用いれば何ともなるし、種属や型を超えた戦いが見たいという声も多いことや、種属・型別の競技人口の関係から、そこまで重視されているものではない。
そしてもう一つは男女混合の試合が数多く行われるようになったことだ。その最大の理由は魔物娘の基礎体力が高いことだ。競技の内容にもよるが、平均して男子と同等、種属によってはそれ以上のことが多くなり、同等の実力があれば男女でも拮抗した勝負ができるようになった。例えば魔物娘が現れて間もない頃、無敗のヘビー級チャンピオンを1RKOで破った元魔王騎士団のサキュバスの逸話がある。TV等で放送されることも多く、毎年熱い勝負が風物詩となった夫婦の選手もいる。そしてこれにはもう一つ理由があるのだがそれは後ほど。
着替えを済ませ、青に黄色のラインが入ったボクシングトランクス一枚の上裸姿になり、両腕に青のボクシンググローブをはめた僕はリングのある部室へと戻った。先輩は同じ姿勢のまま、赤コーナーで待っていた。
「さぁ早くリングに上がるんだ。試合が待ち遠しくて仕方ない」
「大丈夫ですって逃げたりしませんよ。それに……」
「それに何だ?」
「楽しみなのは僕も同じですから」
そう言いながら僕はロープをかき分け、リングの上、青コーナーへと上がる。期待で胸を膨らませながら。
ボクシング、ロープで囲まれたリングの上で二人の選手がグローブを着用した拳で殴り合う競技。いくらスポーツであり公式で認めらているとはいえ、殴り合い、しかも相手は頑丈な魔物娘であっても、異性相手への殴り合いを心待ちにするなど、大多数の人々の感覚では理解されるものではない。
「じゃあ、まずは宣誓のキスからだ。例えこれから殴り合うとしても私達の愛は本物だと確かめるためのな……」
「はい、先輩……」
「んっ……」
「ん……ジュルル……」
互いにグローブで覆われた手を相手の腰に回し、密着すると、互いに口づけを交わした。柔らかい唇が触れ合うと、シルベリア先輩はすぐさま舌を伸ばし、僕の口内へと侵入させた。上顎前歯を覆うマウスピースを左右の舌使いで舐め回し、マウスピースが口内にある刺激で普段より多く分泌された僕の唾液を舌先で器用に掬い取る。
「んちゅ……ちゅぅ……」
「んぐっ……ずずう……」
僕も負けじとその舌を追い回すように舌を彼女の口内に伸ばし、硬い彼女のマウスピースを舐め回す。そして彼女の唾液を舌で掬い取り、すすり上げる。二人しかいない部室の中には互いの唾液を啜る淫靡な音が響き渡り、異様な空間を作り出していた。
「ぷはっ……キミ……少しがっつきすぎじゃないかい?」
「先輩こそ、夢中で唾液啜ってたじゃないですか」
1分程の後互いに唇を離した。互いに口の間には白い糸がかかり、先輩も僕も零れた唾液が滴っていた。
「よし、ならば本番といこうか。構えるがいい」
「はい。いきましょう!」
「フフ……今日はどれほど成長したパンチを味わせてくれるのかな……?楽しみだ」
「何なら今日こそKOいただきますね」
「フフっ……それはもっと楽しみだ……わかってるな。私の合図でスタートだ」
傍から見ればキスを交わした者同士とは思えぬ物騒な会話をしながら僕らはファイティングポーズをとった。だがこんな恋仲同士の僕らが殴り合うこと。それは魔物娘が定着した現在では当たり前とまではいかないが珍しいことではなくなった。その理由は……
「ボックス!」
先輩が試合開始の合図を叫んだ。と同時に僕は状態を屈め、先輩へと一直線に突っ込んでいた。
そして間合いを詰めると、起伏の激しい腹筋へと1、2、ボディブ
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