「……ここに俺のスマホがあるんだよな?」
俺、豊田光延(とよだみつのぶ)は一軒のアパートへと足を踏み入れようとしていた。
事の発端は一日前、スマートフォンを落としてしまったことから始まった。
初めて落としてしまった事に気がついたのはその日の夜、自宅をいくら探しても見つからなかったときである。
自分のおおざっぱな性格故に、最初ポケットになかったときは自宅に忘れてきたものだと思っていた。実際そうだったことが過去何度かあったし。
誰かが拾ったという期待を胸に、公衆電話からかけても一切出なかった。だが、不幸中の幸いか、位置情報サービスをONにしてあった。そして自宅のPCから追跡した所、なんと反応があった。
それに、その反応のあった場所は自宅から近いものの、少なくとも此処最近は一度も足を踏み入れていない場所からであった。その場所をストリートビューで確認すると、一軒のアパートと重なった。これらの事実から導き出される可能性は、
@誰かが自分のスマホを拾得したということ
Aそれを警察に届けておらず、まだ所持しているということ
Bそしてその習得した人物はこのアパート若しくは近辺に住んでいるということ
の3つであった。その後スマホの充電が切れたのか反応は途切れてしまったが、最後の位置情報も同じ場所であったため、現在も同じ場所にある可能性が高いだろう。しかし、拾ったなら何らかのアクションを起こしてくれてもいいのに、こちらからいくらかけても出なかったのは不思議で仕方ない。
そしてもう一つ気がかりなことがある。個人情報?あぁそれを分ければ二つか。
スマホなので個人情報、すなわち家族、友人その他の電話番号、メールアドレスが収録されてるのは言わずもがなである。ロック解除の時、いちいち入力するのが面倒くさかったので、パスコードロックをかけないでいたせいで、スマホを拾った人間には全て開示されてしまう。
この世は人の赤の他人のスマホを詮索するような悪人は少数であろうと信じている。だが、もし、拾った人物が腹黒く、それが何らかの犯罪に利用されれば多くの人が多大な迷惑を被ることになるだろう。
更に不幸なことに手帳タイプのスマホケースのポケットにはIC乗車券に学生証という大事な身分証明書が入っている。
それに加え、自己流の暗号化がなされているとはいえ、メモ帳Appにはパスワードの控えが記されている。
そう解読はされないだろうがアラン・チューリングのような天才に拾われる可能性も無きにしもあらずだ。少々面倒くさかったがパスワードを変えることで一応解決したが。
だが、これらはぶっちゃけどうでも良い(全くもって良くないが)。一番肝心なのは中の『画像フォルダ』である。
リア充の方々なら友達や家族、恋人との思い出写真、可愛らしいペットや動物の写真を保存しておく場所であるが、自分の場合はその限りでない。
俺の場合は画像フォルダには俺のありとあらゆるフェチが細かく分類され、保存されているのである。
視聴していたアニメタイトルや「眼鏡っ娘」「メイド」、といったメジャーなフェチから「筋肉娘」や「モンスター娘」といったニッチなフェチにまで細かく分類されている。
これを見られるのはとてもたまったもんじゃない。俺が今迄家族にも秘密にしていた性癖を全く見ず知らずの他人に知られるのである。
パスコードロックをかけておけば良かったと本気で思った原因の殆どはこちらである。
遠隔操作でロックをかけたのが夜になってからで、少なくとも半日は見られた可能性がある。
ただ、警察に届けられるのを待てば、互いに顔を合わせずに済むのであるが、警察での手続きは色々と面倒くさいし、落とし物が見つからなかった友人の先例もあるので警察はあまり当てにしないことにした。
それに、自身で安否を確かめた所まで来た以上、自身で解決せねばならんとの謎のポリシーがあったため、羞恥心をかきすてて、自ら取り戻そうと決心したのだった。
「……よし、覚悟完了。いくぞ」
まず、一部屋目、恐る恐るインターホンを押す。
「はい、どちら様でしょうか?」
暫くの沈黙の後ドア越しに聞こえたのは女性の声。声色からすると40代位だろうか。
「夜分遅くにすみません、あのー私、豊田光延と申します。突然ですが最近、スマートフォンを拾得されませんでしたか?」
「いえ、知りませんね。」
「そうですか。ありがとうございます。突然お邪魔してすみませんでした。」
一軒目はシロだった。だが、まだ可能性はある。俺は落ち込むこともなく直ぐ様隣の部屋のインターホンを押したのだった。
「拾ってません」
「知らないです」
「知りませんね
#12316;見つかるといいですね」
留守も含めて、いずれの部屋もシロだった。俺は素っ気ない返答が多かったことや、電気が点きっ
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