私の可愛いゆーじへ
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福引や懸賞で当たったとか、チケットをお裾分けしてもらったわけでもないんだけど、1週間パパと温泉旅行に行ってきます。
本当はゆーじも連れて行きたかったんだけど、学校と部活があるし、それに久しぶりに昔みたいにパパと二人きりで夫婦水入らずになりたかったの。今回は許してね
#9825;
机の上にお小遣い置いといたから、ご飯代に使ってね
#9825;お菓子ばっかり買ったり、着服したりするのはダメよ?
彼女が出来たら好きなだけ行けばいいからね?お土産期待しててね
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あなたのママより
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「あのヴァカップルがぁああああああああ!!!!!」
置手紙を読み終えるなり、雄二は近所一帯に響きわたる程の大声で叫んだ。置手紙と食事代を残し、彼の両親は家から消えていた。どこの温泉街に行ったかは手紙には何ひとつ手がかりはなかった。
今朝の両親といえば、普段通り、朝から盛りあっており、今この時まで旅行のりの字も全く仄めかしていなかった。雄二にとっては完全に想定外の出来事だった。
「だけど結構あるな……」
しかし、雄二に対する両親としての2人の愛情はお小遣いの金額にしっかりと表れていた。少なくとも1週間程度の食事には困りそうにない額だ。
「自炊すれば安く済むけどなぁ……部活でヘトヘトなのにここから料理は面倒くさいしな……あっ!スーパーなら安く済むし、浮いたお金で漫画やゲームが買えるな!決めた!スーパーだ!」
着服はするなとのお達しだが、鬼の居ぬ間ならぬ、サキュバスの居ぬ間だ。どうせばれっこない。雄二は当分スーパーのセール中の惣菜や弁当で済ますと決めると、早速今日の夕食を買いに家を飛び出した。
「あら雄二君、今からお出かけ?」
「あっ、みゆきおばさんこんばんは。ちょっとスーパーに……」
家を飛び出してすぐのところで雄二は、眼鏡をかけた一人の女性と鉢合わせた。ウナギの下半身を持つ魔物娘、鰻女郎であり、彼の隣人である女性、みゆきだった。腕から提げているバッグの中身から食料品の買い出しから帰ってきたところのようだった。
「スーパー……あっ!わかっちゃったわ。今朝ご両親がキャリーバック持って出かけたのを見かけたわ。つまり、ご両親が不在で、ご飯を作ってくれる人がいない。だからスーパーに買い出しって所だけど、雄二君は部活で疲れてるし、自分でご飯を作ることには慣れてない。だから料理用の買い出しじゃない。さしずめスーパーの弁当や総菜で済ませようとしてそれを買いに行く……って勝手に推理しちゃったけど合ってるかしら?」
「すごいやみゆきおばさん……百点満点の回答だ……」
「うふふ。おばさんやって長いのよ?それくらいすぐわかるわ」
みゆきは右目下に泣黒子がある顔に得意げな微笑を浮かべていた。自分自身でもおばさんとは言っているものの、穏やかかつ物腰柔らか雰囲気、どこか未亡人を思わせる儚げな大人の色気を纏ってはいたが、皴のない瑞々しい肌は老いの二文字とは程遠いものであった。
「ダメよ?育ち盛りの君がその程度の食事で済ましちゃ。強くなれないわよ?」
「すみません……」
「そうだわ。よかったら台所貸してくれないかしら?」
「えっ!け、結構ですよ!お気を使わなくても!」
「いいのよ。私もこれから夕食だし、いつも多めに作っちゃうのよ。それに、若い子はいっぱい食べないとね?よし、おばさん張り切っちゃうわよー」
「あっもう作る気満々ですか……」
「さっ、入って入って。お邪魔しますわね」
そう言うとみゆきは雄二を彼の自宅へと押し戻しながら、上がっていった。
「♪〜」
雄二の自宅の台所に立ったみゆきは紺の縦セーターの上に白の割烹着を羽織り、鼻歌を口ずさみながら食材と調理器具を準備していた。年号が二つ以上前の時代が舞台の邦ドラに出てくるお母さんみたいだ、と後ろから眺めていた雄二は思っていた。
「さっ、私は料理作るから、雄二君は宿題とか明日の準備とかして待っててね」
「いや申し訳ないです!僕もお手伝いします!全部みゆきさん任せにするなんてできないです!」
「あらあら、雄二君は本当におりこうね。でもいいのよ。雄二君は自分のことを優先して。それに、料理はできてからのお楽しみだから」
まるで我が子の成長を喜ぶ母のようにみゆきは嬉しそうだった。そんな彼女が何故ここまで嬉しそうなのかよくわからず困惑の表情を隠せない雄二だった。言われた通り、ダイニングから出ようとしたその矢先、何かを思い出したみゆきに呼び止められた。
「あっ雄二君、部活何してるのかしら?」
「ボクシングです」
「あらそう、じゃあ減量とか気にしなきゃダメかしら?」
「あっ気にしなくて大丈夫です。こないだ大会が終わって、次の公式戦は当分先
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