彼らはその現実を即座に受け入れることはできなかった。頭から尾の先端まで10mは優に超える巨体、全身を荒々しく覆う鱗、空気を揺るがす羽音と共にはためく巨大な翼を生やした生物。その姿は太古の昔に地球に存在した恐竜、というよりも絵本やお伽噺の挿絵に描かれた姿によく似ていた。
更にあろうことか、その背中には馬を操る騎手の如く、その巨体に跨る人影も見えた。
「ドラ……ゴン……!?」
ジョン・ミラー大尉の動揺で震えた瞳は、ヘリコプター編隊を取り囲む竜の群れを映し出していた。
――――数分前
「♪Gonna tell Aunt Mary about Uncle John He claim he has the mystery but he’s havin’ a lot of fun yeah! Baby! Wooh! baby, havin’ me some fun tonight, yeah!」
鳥たちのさえずり、霊長類か何かの獣たちが鳴き叫ぶ声、茶色の大地を緑で覆い尽くすように生い茂る草木が風にたなびく音、これらが織りなす熱帯雨林の大自然が奏でる音色。
陽気なロックンロール・ミュージックとローターの轟音がそれらを無惨にもかき消していった。
196X年ベトナム、熱帯の木々が覆うこの大地も戦場と化していた。
一人の男がヘリの中からひたすら続く真緑の熱帯雨林を窓に肩肘をついてぼんやりと眺めていた。
彼の名前はジョン・ミラー。陸軍大尉。第2騎兵師団、第7騎兵連隊隷下の臨時編成特殊小隊隊長に任命された男だ。この臨時編成特殊小隊は、最前線の一つである通称「還らずの渓谷」に派遣するため、急遽編成された部隊であり、その多くは激戦の生還者より寄せ集められている。この地点はゲリラの群発的な奇襲に悩まされており、それに対抗しうる精鋭を寄せ集めて欲しいとの上からの要請で編成された部隊だった。
ジョンがこの隊の隊長に抜擢された理由も「生還者」であることらしいのだが、口数が少なく、無表情でぶっきらぼうな彼が自身の経歴を語ったことはなかった。
「HQ、HQ、こちらデルタ、航行は順調。異常なし」
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lt;HQよりデルタ、了解。到着まで気を抜くことのないように。オーバー
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「報告時くらい音楽を消したらどうだ?」
「いいじゃねえかよジョン、こういう時ぐらい楽しめよ?」
無線機に向かって状況報告をしていた黒肌の男がジョンに語りかける。無表情なジョンとは対象的に、朗らかな笑みを浮かべていた。ここが戦場であることを忘れているかのように。
そんな彼の名はアレックス・ガーランド。こんな緊張のない彼も陸軍大尉で第2騎兵師団、第218航空連隊第1大隊D中隊隊長という立派な肩書を持っている。戦場の上空で音楽を流すような奔放な正確だが、その実力は確かで一度彼が操縦桿を握れば、その右に出るものはいないと言われる卓越した操縦能力を持っているらしい。
「ったく……お前が生存してて、また戦場に戻ってきて『還らずの渓谷』に派遣されるって聞いて、慌ててお前の輸送と護衛を引き受けてやったから、こうして感動の再開ができたというのに、なんでお前はこうも薄情なんだ?もっと嬉しがれよ?」
「悪いがそんな気分じゃない、どうせ死ぬ人間との再開は喜ぶだけ無駄だ」
「何いってんだ……オレが死なせるもんか!お前のためにとっておきの改装に最新の武器を取り寄せたんだぜ!」
「その気持ちは受け取る。だが今は静かな環境が良い。頼むから音楽を消してくれ」
「つれねぇなぁ……粋なジョークで返す以前のお前はどこ行ったんだ?」
抑揚のない声で冷淡な返答を返したジョンはまたヘリの外を眺めた。アレックスは渋々オープンリールの電源を落とした。外を眺めるジョンの表情はまるで感情というものが完全に枯渇したように何も読み取れなかった。まだブテックのマネキンの方が感情豊かに思える様だった。
ジョンが目を遣った先にはアレックスが指揮する他のUH-1ヘリが等間隔に並行して飛行しているのが見えた。うち1機は最新鋭の攻撃専用ヘリAH-1Gだった。パイロンに取り付けられた一際大きいロケット弾ポッドが目を引く。ゲリラをなぎ倒すためとアレックスの肝いりで用意させたとのことだ。
アレックスに感謝の念を感じつつも、ジョンの頭は別の思考で支配されていた。
――どうせこの戦いで死ぬために戦場に舞い戻ったんだ。二度と故郷に土を踏む気などない。今馴れ合ったところで何も変わらない……
「んっ?」
雲の合間にキラリと何かが光った。歴戦の猛者であるジョンは、朧げな視界でもそれを見逃さなかった。
「アレックス、ヤバいぞ、ミグだ……!」
「何だとぅ!?」
光った先に小さな点が見えた。それは徐々に大きくなっ
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