「それじゃ、っとと。今日も一日頑張ろっと…」
とある日。とある社宅の一室。
戸呂助が目を覚まし、立ち上がって背伸びをして立ちくらみを一つ。
そうして居間ではちょっと雑になった自作の朝食を済ませ、
玄関では足をうっかり踏み外しそうになるがなんとかこらえて革靴を履く。
―――タタンタタン…。タタンタタン…。
「―――でさー、オレ見たわけよ」
「えー何々」
「その女がさ、別の金持ちそうな男とホテルから出ている所!!」
「うそー!?」
「嘘じゃねえよ?ホレ、この画像だ」
「うわぁ、ホントだぁ…。信じらんなーい。キャハハ」
「その女の彼氏やってる奴、カワイソーだよな〜。
オレの勤め先の新人なんだけどさ。あ、新人っても何十人といるから分かるわけ―――」
―――タタンタタン…。タタンタタン…。
「―――今日アイツやめるんだってよ」
「あー、無理だったかー」
「だよなあ。よくもまあ口が回らないのにあんな職に就こうと思ったもんだ」
「なんだかんだ言って就職難だからな―――」
―――タタンタタン…。タタンタタン…。
電車に乗り、その途中で戸呂助は軽石とのこれまでのメールを見て悦に浸る。
『社黒〜。社黒駅でございます。お出口は左側でございます』
「んあ…?ってやべっ!?」
少しボーっとしていた。そのせいでうっかり電車で乗り過ごしそうになってしまった。
人混みの中、押しつ押されつ激流に身を任せるように流されていつもの改札を通る戸呂助。
その中に戸呂助の勤め先の社員も少なくはない。
「よっ、戸呂助!」
「んあ、おはよぅございます…。先輩…」
「どうしたんだお前。最近ボーッとしてること多くね?」
「そうでしょうか…」
「オレは先行ってるぜー」
「はい…」
返事をし、走って行く先輩社員の背を見送りながらふらふらと歩いて行く戸呂助。
そのまま会社のドアをくぐり、安っぽく見えるゲートを社員証で通過する。
――――――
「―――諸君!この会社の社訓は!?」
「「「はい!『24時間徹底的に働くべし』」」」
「声が小さい!!」
「「「はい!『24時間徹底的に働くべし』!!」」」
「もう一つ!この会社の社訓は!?」
「「「はい!『お客様の満足こそが私達の給料』!!」」」
「よろしい!先週の成績だが、変わらず戸呂助くんがNo.1を保持している!お前らもこいつを見習って仕事に励め!」
「「「はいっ!!!」
――――――
「はぁ…」
茶番な朝礼が終わった。
こんなの手間なだけで、むしろやめてく人を止めることなんてできないのに。
そう頭のなかで嘲笑い、ちょっとのため息を付きながら今日の巡回リストを戸呂助は確認する。そんな中、とある同僚が呼び出してきた。
「おい戸呂助。部長が呼んでるぜ」
「ン?」
果たして今の考えがいつの間にか独り言に出ていて聞かれていたのだろうか。
考えていても仕方がないのでそのまま部長のデスクに向かっているとちょっとした噂のようなものも聞こえる。
「アイツ、ボーっとしているのにすんげー成績叩き出すんだよなぁ」
「しーっ!!お前考えなしに発言すんなよな!聞こえてるぜぇ。前半の」
「なんだよ、事実じゃねえかよ。…まあ、その成績も下降気味とは聞くけどな」
ボーっとしているのくだり。
そうだ。確かにそんなことが多くなってきた。
どうもいつも頭がふわふわしているような感覚。
足元がたまに覚束なくなり、何もないところでころ―――
「―――っ!!?」
―――転んだ。何もないところで。
「オイオイ、またやったぜアイツ」
「ああいうのさえなきゃ私達の顔なのにねー」
「オイ。あんなのが顔だって認めたいのかお前」
「まさか!」
周りの同僚がくすくす笑いながら話すのが聞こえる。
少し不愉快だがいつもの事であるのは間違いない。
そう考えつつも、不機嫌な雰囲気を少し漏らしながら戸呂助は部長のデスクに向かうことにした。
「君は最近、ケアレスミスが少しだが増えてきたようだな」
「…すみません」
「困るなあ。ウチは成績はちゃんと出しさえすれば少しのことは目をつぶるが、そんなにケアレスミスを頻発して成績を落としてしまうようでは何か対応を考えなきゃいけなくなる」
「…はい」
「お前、入社した時から雰囲気全ッ然変わってしまってる。平たく言えば気が緩み過ぎだ。今はいいが、成績を更に落としてトップから転落したり社会的に致命的なミスを犯したり、客先でそんな醜態を見せるようなことがあったら、ここにはいられないと思え。いいな」
「…ふぁい」
部長のありがたい小言をぼーっと聞き流す戸呂助。
最後に持ち場に行ってよしと言われたので部長のデスクを後にする。
どうして最近頭がはっきりしなくなってきたんだろうか。
考えながら戸呂助は会社を後にし、先日食いつき
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