「なっ…!?魔物共め…!」
吐き捨てながら、剣に手を掛ける。
山岳付近、森林の街道。
予想外の出来事だった。
野営地が騒がしい事に気づき、見回りから帰還した俺達が野営地で目にしたものは、仲間達に襲いかかる魔物の群れ。
魔物の数はおよそ20。種族はまばらで、討伐隊の人数と大差ない数だ。
こちらの隊長の姿は見えず…討伐隊に指揮が行き届いている様子は無い。
連携を断たれ、一人、また一人と魔物に捕らえられていく。
おまけに、魔法の使える相手が混じっているのか、どこからか艶の有る赤色をした球体が飛んできて、討伐隊の中でも手練れだったはずの剣士に襲いかかっていた。
機敏な動きで横に跳び、剣士は球体をかわしたと思いきや、球体はその軌道を直角に変え、剣士に直撃する。
小さな閃光が炸裂し、剣士はばたりとその場に倒れこむ。
加勢に駆けつけるため、脚を動かそうと思ったその時には、既に討伐隊の半数が魔物に捕らえられていた。
「逃げるぜ、あの数相手じゃ勝ち目は無い。そもそも僕達はこれが初陣だって事、分かっているだろう?」
剣にかけた手が掴まれ、野営地とは反対の方向に引っ張られる。
濃いブラウンの髪に、何処か頼りない顔立ち。
だが、この状況でも冷静さを失っていない様子で俺を制止したのは、一緒に見回りをしていた、親友アルフレッドだ。
「くそっ……!」
魔物共に斬りかかりたい思いを抑え込み、剣から手を離し、踵を返す。
アルフレッドの言うように、剣を抜き、奴等に立ち向かっても、勝てる見込みは無いに等しい。
魔物との戦いは、数的有利を確保した上で、味方と連携しつつ行う物だからだ。
魔法を使う相手が居るなら、尚更になる。
多対一に持ち込めず、連携も期待出来ない以上、ただ、無駄に犠牲者を増やすだけの行いにしかならない。
逃亡が最良の選択。
そう自分に言い聞かせて、駆け出す。
「あらあら、折角のいい男…逃がしたりなんかしないわよ?」
駆け出すやいなや、後方から聞こえる、女の声。
脚を動かしながら顔を後ろに向ければ、半人半蛇の魔物、ラミアが地を這いこちらに向かってきている。
その速度は速く、並の人間の脚力しか持たない俺達では、じきに追いつかれてしまうだろう。
「アルフレッド、追ってきたぞ!」
「君が大声を出すから…仕方ない、二手に分かれようか」
落ち着いて言い放つアルフレッド。
確かに、二手に別れれば、どちらかはあのラミアから逃れられるだろう。
どちらを追うか迷ってくれれば、その間に双方が逃れられる可能性もある。
二人掛かりでも、魔物に勝てるか怪しい現状において、合理的な提案のはずだ。
少なくとも、二人で一緒に逃げるよりはマシになる。
「お前が狙われても怨むなよ…!」
そう言って、右に進路を変える。
全力で地を蹴り、樹々の間を突っ切って行く。
「君こそ。それじゃ、また会おうぜ」
何処か余裕を持った口調でアルフレッドは応え、左に進路を変える。
さて、どちらを追うか迷ってくれよ、
片方が犠牲になるつもりで分かれて逃げたわけではないんだ…!
そう願いつつ、息苦しさを抑え込み、懸命に脚を動かす。
稼がれた時間の中で、とにかく、全力で走る。
「あら、気を利かせて二人っきりにしてくれるなんて、良いお友達ね」
だが、目論見は崩れ去る。
どうやら、最初からラミアは俺を狙っていたらしく、迷う素振りすら見せずにこちらへと向かって来た。
あと十秒もあれば俺に追いつくだろう。
「(っ…………くそっ……!)」
このまま走っても追いつかれるのは明白、むしろ、息切れするまで追い回されて、体力が尽きた所を狙われるだけだ。
「さて…右に逃げる?左に逃げる?それとも、私の胸に飛び込んで来る?」
思考の間にも、余裕に満ちた声は近づいて来ている。
下策だが…戦うしか無い、か…
覚悟を決め、速度をゆっくりと落とし、気づかれないように、剣の握りに手を近づける。
息切れしたかのように、体勢を崩し、呼吸を荒げる。
無様で哀れな逃走者、そう見えるように。
正攻法で勝ち目は無い…なら、不意討ちを狙う。
「あら、以外とバテるのが早かったわね」
俺が速度を緩めたのを見てか、悠長な言葉が後ろから聞こえる。
騙されてくれたか?後は…
「っ…はぁっ…はぁっ…」
近づいて来るラミアに神経を集中し、一瞬の隙を狙う。
振り向きながら剣を抜き、素早く突き刺す…そのビジョンを頭に浮かべる。
「ふふふ…捕まえちゃうわよ…」
余裕綽々な声が背後から聞こえる。
蛇体の這う音も、すぐそこだ。
「……!」
握りを掴み、身体を反転させながら視界にラミアを捉えつつ、剣を抜く。
そして、即座に身体を前に倒し、踏み込み、心臓を狙い、渾身の力で突きを繰り出す!
「きゃっ…!」
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