「………宝が欲しい」
人里から離れた洞窟の奥…私の住処。
自分の周りに散らばる、金、銀、ミスリル、宝石、装飾品を眺めて、言葉がこぼれる。
金も、銀も、ミスリルも…美しく輝く…が、それだけに過ぎない。
宝石は……これも、美しく光を反射し、私を惹きつけるが…やはりそれだけでは物足りない。
宝飾品はどうか?
精巧な技術により、金、銀、ミスリルと、宝石を組み合わせ…紋様を掘り込んだ、一級品の物だ。
確かに、美しい。文句のつけようが無い程に美しいはずなのだが…そう、きらびやか過ぎるのだ。
人間の、権力の誇示…そんな醜い意図が見えて…悪趣味で…美しさを損ねている。
納得のいかない事に、本能はそれを『宝』で有ると感じている…が、私の理性では、これは宝とするに足らない物だ。
しかし、不満を覚えつつも、結局集めてしまう辺り…本能には逆らえないのだろう。
だから、せめて…納得のいく物を手に入れよう。
こんな悪趣味な物では無く…もっと洗練された物をだ。
方法は…そうだ、造らせればいいだろう。
材料は此処に幾らでも有る、心配は要らない。
近くに街が有ったはずだ…確か、貿易によって栄えている…そこに向かおう。
人間や魔物が集まる所に行くのは、あまり気乗りしないが…他に手段もあるまい。
街に着いたら、出来るだけ早く、腕の良い男を見つけて、納得のいく物を造らせるか。
近くに有る貴金属の塊や、大粒の宝石の中から、特に質が良いと思われるものを選び取って、適当な袋に入れる。
そして、それを持って、洞窟の外に歩み出て、翼を広げる。
「―――」
短い呪文を紡いで、洞窟の入口に、侵入者を拒む魔術をかけて…
「…行こう」
誰に向かってでもなく呟いて、翼を羽ばたかせて、宙に浮かび、そして、街に向かった。
「んー…今日はお客さんが来ない、な…」
時間は昼過ぎ、適度に膨れた腹と、暖かな日差しからくる眠気を堪えながら、
のんびりと、しかし、手は抜かずににネックレスの図面を引く。
この街に店を構えてから、半年……なかなか業績が奮わない。
もっとも……採算度外視でやっているような物だから当然と言えば当然か。
食っていければそれでいいしな………
カランカラン………
おっと…お客さんだ…
店の扉を開く音に、顔を上げて、扉のほうを向くと…
「…ドラゴンか?珍しいな…」
人間と比べて大きいその手足は、硬質な艶を持つ深緑色の鱗に覆われ、4本の指の先には鋭い爪が生えている。
背中には、今は畳まれているが、鱗と同じ色をした翼。
蛇のような尻尾は、床に触れないように、控え目に、ゆっくりと、くねっていて、何処か妖しく感じる。
鱗に覆われていない部分は、艶めかしい肌が覗いていて、肉付きのいい健康的な太股に、一瞬、視線が止まってしまう。
じろじろ見るのもどうか、視線を外した先は、またもや鱗の無い、色気を感じさせる腹部。
再び視線を上に逸らすと、今度は、鱗に覆われながらも、確かな存在感を持つ、大きめの胸。
鎖骨の辺りには、鱗に縁取られた宝玉。
結果として、彼女の身体を這うような視線の動きになってしまった。
そして……それに気づいたのか、俺の台詞に気を悪くしたのか…それとも此処に入った時からか…
すぐに彼女の顔に視線を移すと、不愉快そうな表情を浮かべて、俺を見ている。
ミスリルのように美しい、銀の長髪。その間からは、やや後方に向かった角が伸びている。
顔の側面からは、明らかに人間のものとは違う、鱗と同じ色の、異形の耳が見える。
そして、俺を見据えているのは、少し細く、切れ長の、眉と共に吊り上がった目。
全体的に引き締まった印象を受けるその顔は、間違いなく、文句無しの美人ではあるが、
不愉快そうな表情と相まって、近寄り難く思われそうだ。
実際、他人を近づける振る舞いをするようには見えない。
「……………貴様が店主か?」
彼女のルビーのように紅い瞳と…眼が合った。
口を開くと、低めの、凛とした…しかし、高圧的な声が発せられる。
「ああ………そうだ」
まあ…珍しい客ではあるが、お客さんはお客さん、それだけだ。
「…………」
いつもと変わり無い口調で俺が返答を返すと、彼女は、何事も無かったかのように眼を離して、店に置いてある商品を見渡し始める。
無論、どれも満足のいく出来の作品だ。
「………」
さてと……図面の続きを書こう。
「ふむ…なるほど…」
なにやら呟く声に、視線を紙面からドラゴンへと戻すと、彼女は顔を近づけて、熱心に作品を眺めている。
その表情は、先程までの不愉快そうな物ではなく魅入っている…とも取れるその様子は、造り手としては、嬉しい光景だ。
「…………」
しばし彼女を眺めた後、再び紙面に向かって、ネックレスのデザインを考え始め
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