蛇嫁の嫉妬 〜ラミア〜

とある日曜日。

「これで、チェックメイトだ。
 悪いな、レアード」

黒のルークを前進させ、チェックメイト。

「ああっ…
 急に強くなったなぁ、ジェイク」

頭に手を当てながら、レアードは言う。

「この前、お客のヴァンパイアとチェスをしてね。
 それが強いのなんの。
 でもって、ちょっとだけご教授願った訳だよ」

これで勝てなきゃ、俺は無能だ。

「リトリアさんは不機嫌だった と」

「オチを言うなよ」

ニヤりとして言うレアードにツッコミを入れ、

「「ハハハッ」」

二人して笑いあう。

「入るぞ、ジェイク」

カランカラン…

扉の鈴を鳴らし、誰かが家に入ってくる。

「レアードも一緒か、手間が省けた。

 
 珍しく、嫁さん居ないな、ジェイク」

振り向くと、袋を手に持った我が友エーカー。

「お、エーカー。チェスはどうだ?
 
 リトリアは、こいつの家でアップルパイの作り方を教わってるよ。
 それで、俺たちはチェスをして待ってる」

楽しみだな、りトリアのアップルパイ。
『美味しいアップルパイ、作ってあげるわよ?』
だなんて、夫冥利に尽きるね。

「良いねぇ、お前ら。
 相変わらず、色恋沙汰には無縁な彫金師だ、俺は。
 
 なんでお前らみたいにモテないのかねぇ…
 
 それはさておき、良い物を持ってきた」

袋の中身を、机に広げだすエーカー。

「お、なになに…?」
机の上に身を乗り出す。

「ホルスタウロスの牛乳とチーズだ。
 品薄なのが、幸運にも手に入った。
 俺も食べたことは無いんだが、とにかく美味いらしい。
 で、せっかくなんで、お前らにも分けてやろうって訳だよ。
 一本と一切れずつしかないんだけどな。
 ほれ、飲め、食え」

渡されたのは、牛乳瓶とチーズ。
牛乳瓶に巻かれている、デフォルメされたホルスタウロスのラベルが可愛らしい。

「なあ、エーカー。
 嫁がラミアだって事、分かってるよな…?」

大げさに、呆れた仕草。

「勿論。
 飲んでみたいのに、飲めなかったんだろ?
 乳製品好きだもんな、お前」

したり顔で、エーカー。

「…よく分かってるじゃないか」

流石は我が友。

「いぇーい」「うぃーす」

ハイタッチを交わす。

「バレたら大目玉だなぁ…
 まあ、俺には関係ないけどね。リーシャは優しいから」

…案外、分からんぜ?
いくら優しいとは言え、エキドナだ。
まあ、そう思うんならそう思っておいて貰おうか。
口は出さない。

「嫁自慢も大概にしろ。
 せっかくの精力剤も、相手が居ない俺はだな…

 お、美味い、美味い」
チーズを口にして、エーカー。

『何かが違う』と何人に言われたんだろうか。
まあ、少なくともリトリアとリーシャさんには言われた訳だが。
…顔も性格も、良い奴のはずなんだけどなぁ、こいつ。
これがどうして女にモテないのか…



さ、食おう。

手を合わせ、チーズを口に運ぶ。

「これは…
 今までに食べたどのチーズよりも…美味い。
 うん、ダントツだ…
 これは、リトリアに隠れて食べる価値は有る。
 断言できるね」

ホルスタウロスのチーズは、舌の上ですんなりと溶け、
濃厚な旨みと、仄かな甘味を感じさせる
そして、濃厚であるにも関わらず、後味は軽く、癖も無い。

正に、極上。

…エーカーには、指輪の件といい、これといい、貸しばかりだな。
今度は、自分で買って食べよう。
リトリアには内緒で。

「いただきます。

 …これは、美味しいな。
 今度売ってたら、リーシャと一緒に食べよう」

呑気な。
後悔する。8割方。
ああでも、結局イチャイチャして結果オーライになりそう。
1割か2割だな。

……やっぱり俺も、リトリアと食べたいなぁ…
勿論、バレないかビクビクせずに。





「それじゃ、牛乳を飲もうぜ」

全員がチーズを食べ終えた後。
牛乳瓶を手に取るエーカー。

「「そうしようか」」

レアードと共に、二つ返事。

「それじゃ、乾杯」

「「乾杯」」

妙な連帯感を感じながら、蓋を開けた牛乳瓶を口に当て、傾けると、
牛乳特有の甘味を濃くしたような味が、口の中に広がる。
味は濃いが、口当たりは爽やかで、何本でも飲めそうだ。

毎朝飲みたいな…リトリアが許せば。

そんな事を考えながら牛乳を味わっていると…



カランカラン…

扉の鈴が鳴る音。

「ジェイクー、アップルパイ出来たわよー!」

「レアードさん、アップルパイですよ…」

振り向くと、愛しの妻リトリアが、アップルパイが乗った皿を持ち、部屋に入ってくる。
そして、遅れてリーシャさん。

…え。

「「「「「……………」」」」」

牛乳を飲みつつ、それぞれの妻を見つめる俺とレアード。
牛乳を飲みつつ、撤収の準備を始
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33