孤独を埋めて

「この一対の短剣は、中々見ない類の品ですね…
 それぞれ、麻痺と睡眠の魔法で『刃が構成されている』というものです。
『武器に魔法が掛かっている』というものならそれなりに見つかるのですが、
 これは、なかなかお目にかかれる物ではありません。
 銘は…睡眠の方が『セスタ』、麻痺の方が『アルジス』です」

そう言って、商店の主人は短剣を俺に渡す。

「つまり、この短剣で斬っても麻痺、もしくは眠るだけ という事で?」

「ええ、そうなります。
 麻痺、もしくは睡眠の魔法を当てた時と同じ効果が得られるでしょう。
 高位の魔物を相手にするので無ければ、十分過ぎるほどの強い魔力が込められております。
 ただ、芸術的価値が有るわけでもないため、一対、金貨20枚で買い取りになります。
 …そちらにとっても、悪い提案では無いと思いますが?」

「いや、これはダンジョンで使うよ。
 で、あのルビーは、幾らで買い取ってくれるんだい?」

 「査定させた結果ですが、あのルビーは、金貨100枚で買い取り、でどうでしょうか」

100か…
せっかく危険を冒して手に入れたお宝なんだ、言い値で売るのは勿体無いな。

「それで、ルビーなんだけど、150なら…手を打とうと思う」

とりあえずは、高めに吹っ掛ける。
ここから、妥協点を見つけよう。

「ふむ…
 分かりました、150で手を打ちましょう」

少し考え、了承する主人。

畜生、150以上が適正か…もう少し高く吹っ掛けておくべきだったな。
手を打つと言った手前、さらに値を吊り上げるのも、みっとも無い。

「それでは、金貨の確認を」

カウンターの上に置かれた金貨袋。主人はその中身を広げ、
俺の前で金貨の枚数を数え、袋に入れ直していく。

「………150。 金貨150枚、確認して頂けたでしょうか?」
 
「確かに150枚だね、確認したよ」

「それでは、商談成立ですね。 
 あの洞窟の財宝を手に入れた暁には、是非とも、また来てもらいたいものです」

手に取った金貨袋からは、確かな重みを感じる。

「金庫の中身全部でも買い取れないようなお宝を手に入れてきてやりますよ」

金貨袋をバックパックに仕舞い、冗談めかした台詞を吐き、店を後にする。

…やっぱり、もっと高く吹っ掛けられたよなぁ。
まあ、アンダイス洞窟の財宝を手に入れれば、大した問題でも無いか。

「さて、後は情報収集か」

酒場に向かおう。









「お、美味そうなリンゴ。 よし、一個貰うよ」

道中、通りがかった市。
小腹が空いたので、銅貨2枚を払いリンゴを買う。

「いただきま…」

リンゴを齧ろうとしたその時、視線を感じ、手が止まる。
視線を感じる方向に振り向くと、6歳ほどの少女が俺を、いや、手に持ったリンゴを見つめていた。
少女が着ている服は、ところどころ擦り切れ、靴の紐は、千切れている。

これは放って置く訳にはいかないな。

「これ、食うかい?」

右手に持ったリンゴを、少女に差し出す。

「いいの…?」

戸惑いがちに尋ねられた。

「ああ、食べてくれ」

「…うんっ」

少し躊躇いながらもリンゴを受け取り、齧り始める少女。
両手でリンゴを持つ姿は、小動物みたいで微笑ましい。

「もう一つ、リンゴを貰おうかな」

もう一度リンゴを買い、今度は、自分が齧る。

うん、美味しい。

「美味しいか?」

「うん… ありがと、おにいちゃんっ」

「どういたしまして。 そうだな…家は何処だい? 送ってくよ」

「えっと… あれ…」

そう言って少女は、古びた、小さな教会を指差す。

近かったな。

「教会…?」

「うん、おねえちゃんたちとすんでるのっ」

『おねえちゃんたち』という言葉に引っかかるが、会話を続ける。

「そうか… よし、何人だ?」

「…?」

「何人で、住んでるんだ?」

「1,2,3,4,5,6… 6人っ」

リンゴを持ったまま、指折り数える少女。

意外と器用なのね。

「6つ、貰うよ」

銅貨12枚を店員に渡し、リンゴ6つを抱える。

「さて、行こうか」

教会を指差し、ゆっくりと歩き始める。

「…うんっ」

少女は頷き、俺の後ろについて来る。

「なぁ、『おねえちゃん』って、シスターかい?」

「うん、しすたーだよ。とってもやさしいの」

「ん、そうか」





程なくして、教会に着く。

「お姉ちゃん、ただいまっ」

教会の中に、少女が駆け込む。

とりあえず、門の前で待ってよう。

「おかえりなさい、サーシャ。 そのリンゴはどうしたのですか?」

さっきの女の子、どうやら名前はサーシャと言うらしい。

「えーとね、おにいちゃんがくれたの」

教会の中から聞こえる声。

「お兄ちゃん?」

「うん、こっちー
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