「うぅ……街に来れば良い出会いがあると思ったのにぃ……」
夕方の酒場、そこそこに賑わってはいるが、酔い潰れるには少し早すぎる時間。ラミアがカウンターに突っ伏してくだを巻いている。
入店時には既に酔いが回っていたから、どこかの店からハシゴしてきてこの有様なのだろう。
机の上に乗せられた、大きな胸。その上に頭を置いて、枕代わり。
むにゅりとたわむ豊乳は確かに眼福なのだが……
「……虜の果実酒と、虜の果実の盛り合わせです」
この酒場で働いている自分にとっては、あまり有難くない手合いだった。
ペースを考えずに呑んでいる。酔い方も見るからに面倒そうなタイプだ。
出会いが無い、と嘆く彼女に注文の品を差し出す。
絡まれないように、と願いながら。
「……ねぇ、なんか言いなさいよ」
じっとりとした視線。自身の胸を枕代わりにしながら、こちらを半ば睨みつけるかのよう。
「……ご、ご注文でしょうか」
「ちがう……なんか言いなさいって言ったでしょう」
酒場で働いていながら、自分はあまりこういった状況の切り返しが上手くない。
こういう時に気の利いた台詞を返せるような奴は、お客さんと良い雰囲気になって、そのまま宿屋の方で熱い夜を過ごすわけで……自分は売れ残りともとれる。
「あー、その……きっと、良い出会いがありますよ……?」
故郷で学を収めたはいいが、世知辛くも食い扶持にありつけず。途方に暮れていたそんな中、良い場所があるとジパング装束の行商人に紹介されたのが、親魔物派であるこの街。
男に飢えた魔物に身体を売る……という選択肢もあるらしいのだが、流石に男娼やヒモ紛いの生活をする気にもなれず。
健全な店を謳うこの酒場のウェイターだかバーテンダーだかに、独身男性である事を理由で一発採用され……
「……なんで疑問系なのよぉ」
そして今、僕はラミアの女性に絡まれている。目の前の女性に色気はあれども、可愛げは皆無。
酔っ払い特有のめんどくささを遺憾なく発揮している。
ぺしんぺしんと、尻尾が不機嫌そうに床を叩く。
「……す、すみません」
こんな早い時間から呑んだくれるのを、絡み酒するのをやめれば、嫁の貰い手も見つかりましょう。
そんな言葉が喉から出かかるのを押さえ込んで、苦笑い。
「……」
据わった眼で僕を見るラミア。その赤く艷やかな唇の間から、二股の舌がちろちろと、せわしなく出入りする。
「れろ……あむ……」
彼女は突っ伏したまま、小振りな虜の果実を摘み、舌で絡め取って。そのまま、口へと運びこむ。
その間も、据わった眼は変わらず。僕を値踏みするように、じろじろと眺めてくる。
非常に、居心地が悪い。
「……ねぇ」
「はい」
ひとしきり僕の事を眺めたあと、彼女は口を開く。
「わたし、魅力的よね?」
「……ええ、まあ、魅力的だと思います」
目の前の彼女が魅力的か否かと言えば……自分の目には魅力的に映る。
文句無しの美人だし、その豊満な胸は、男であれば心を惹かれないわけがない。
テーブルに置くだけでなく、セルフ乳枕、とでも言うべき事が出来てしまう圧巻の大きさは、控えめに言っても眼福という物で。
ただ……幾ら美人でも、絡み酒を良しとするかと言えば、否。そんな内心が滲んで、どうにも歯切れの悪い返事を返してしまう。言ってしまえば、半分はお世辞だ。
「んふふ、あなたは見る目があるようねぇ……
そうよ、魅力的なのよ、わたしは……
虜の果実だってこんなにたくさん食べてるんだから……」
有難い事に、彼女が僕の内心に気づく様子はない。魅力的という言葉を間に受けて、途端に上機嫌。
突っ伏すのをやめて、虜の果実をつまみに、虜の果実酒を呑み始める。
「……左様、ですね」
案の定、虜の果実尽くしの注文は、虜の果実の美容効果を求めていたらしく。しかし、目の前の彼女は先ほどまで、出会いが無いと、くだを巻いていたわけで。
それを踏まえると、男を捕まえるために必死というか、涙ぐましい努力というか。
『行き遅れ』などという失礼極まりない言葉が思い浮かぶ。が、自分自身も生まれてこのかた色恋沙汰はなく、他人の事は言えない。
「ほら見なさいよ、この鱗のツヤ……他の子なんて目じゃないでしょう……?」
「……綺麗、ですね。
ただ、こうしてラミアの尻尾をじっくり見るのは初めてなので……他の方との比較は」
自慢気に差し出されるのは、蛇尾の先端。むっちりとした蛇腹に、照明を反射する艶やかな鱗。手入れの賜物なのかは分からないが、確かに綺麗だ。
単なる大蛇のそれでなく、女を感じさせる艶かしさが、彼女の尻尾にはあるような気がする。
「んふふー……綺麗よね、そうよねぇ……
でも…………良い出会いがないのよぉ……おかしいわ、こんなの……」
褒められて機嫌を持ち直したかと思いき
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