「ふぅ……勇者の取り分けはこれで。はい。色々思う所はあるかも知れませんが、恨みっこ無しでお願い致します」
レスカティエ侵攻の軍議。誰がどの男勇者の相手をするか……つまり、婿候補の割り当て。卓を囲むほぼ全ての女は、今だ未婚。私達は、一国を統べる主でもあり、齢百歳や二百歳をゆうに越え得る生娘であり、未だ見ぬ旦那様との蜜月を夢見る乙女でもある。
レスカティエ侵攻。勇者、英雄……御眼鏡にかなう男と巡り合う、千載一遇の機会。いくら外面を取り繕ろおうとも、飢えた獣めいた、ぎらついた眼は隠せず。張り詰めた雰囲気の中で行われていたそれが、ようやく収拾を迎える。
興奮冷めやらぬ面子をよそに、場を取り仕切る刑部狸のミドリは、既婚者特有の余裕を滲ませながら息をつく。
「くふふ。悪いのう、毒蛇よ。妾は真っ先に婿殿を迎えにゆくぞ」
にんまりとした笑みを浮かべて話しかけてくるのは、宿敵たるファラオ。他の場所で出会っていたならば、牙を突き立て毒を流し込むのだけれど、お互いデルエラの友人として招かれているため、デルエラの顔を立てて停戦中だ。
「どういたしまして」
会議の結果、私は男勇者に手を出さず、多くの女勇者を担当する手筈となった。勿論、貧乏クジを引いたわけではない。
私が一人を諦めるだけで、多くの有能な女勇者をこちらの陣営に確保できる事になった。これは、長期的に見て国の繁栄に繋がる事に他ならない。
そして、あのファラオをはじめとした各方面から、便宜を引き出す事にも成功した。精欲しさに子宮を空かせて待っている部下達に、より多くの男が行き渡ることになるだろう。そして、私の統べる楽園は、さらに快楽と愛に満ちていく。
ともかく……あの子達に報告すれば、大喜びに違いないわね。そもそも、琴線に触れる勇者が見つからなかったわけだし……良い取引だったわ。
「次は……勇者に匹敵する素質を持った人間について。
主神の加護こそ受けていませんが……貴女方や右腕が直接出向く必要、価値はあるかと」
そして、議題は次に移っていく。主神の加護を受けてはいないが、確かな才覚、能力を持つ人間。勇者となり得たかもしれない彼らの資料にも、既に目を通し終えていて。
「じゃあ、この子……ジェラルド・ラスフォボスは私に任せてくれるかしら」
勇者の資料にはあまり興味をそそるものはなかったけれど、この男の経歴には、興味を惹かれるものがあった。
魔界銀のサーベルを得物に各地の遺跡を踏破した冒険者。
レスカティエの中では、勇者に次ぐ強さを誇り、こと剣の技量そのものに掛けては、勇者に匹敵する。
それだけならばただの強い冒険者であり、剣士に違いはない。
しかし、彼はレスカティエに居を構えながらも、冒険者としての経験から魔物に友好的だという。勿論、魔物に友好的である事は、こちら側が知る事であって、レスカティエ側では露見していない。
「や、メレジェウト様はこちらが本命でしたか。道理で、男勇者に手を付けられなかった。
彼は魔物に友好的ですが、侵攻した時には抵抗してくると踏んでます。なので、このリストに入れたわけですが」
資料によれば、魔物の集落に討伐隊が差し向けられた時には、被害が出ないように影で尽力してくれているらしい。
そして、さらに興味を惹かれるのは、魔物に協力的ながらもレスカティエに住まうその理由。
レスカティエに住まう人間の女と恋に落ちながらも浮気され、嫉妬に狂った果てに、他の男の元に逃げられて。そして未だに、強く未練を抱いているからだとか。
未練に縛られた剣士。それが、ジェラルド・ラスフォボスという男らしい。
「嫉妬深い男には、嫉妬深い女がお似合い。そう思わない?」
嫉妬、執着。私達、蛇の魔物にとっては、共感を覚える感情。尤も、未だ男を知らない私は、真の意味で嫉妬や執着を知っているわけではないのだけれど……己がそういった女だという自覚はある。
もし旦那様を迎えたなら……身も心も絡め取って、一時たりとも離したくはない。そんな想いが、確かに渦巻いている。
だからこそ、この男には、蛇がお似合い。
「だから、少しお節介を焼くつもり」
元恋人を魔物に変えて、元鞘に戻してあげるのが一番。意中の男が居たならば、そうはいかないけども。
その時は、私が直々に捕まえてから、良い相手をあてがうべきかしら。腕利きを差し向けて、彼を捕まえた子のモノにしても良し。
「でも、あんまり美味しそうだったら……私が食べてしまおうかしら……ふふふ」
もし、私を満足させてくれそうな男ならば……私のモノに。
こればかりは、実際に見定めるまで、どうなるかは分からない。
しかし、伴侶が見つかるかも知れないという、その期待だけでも、心が沸き立ってしまう。
「なるほど。さて、皆様方……メレジェウト様がラ
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